世界初の“揚げない天ぷら”が異例のヒット 食用油の老舗メーカーの気概「家庭で作る天ぷら文化の火を消さない」

AI要約

昭和産業が世界初の“焼き”天ぷら粉を開発し、累計150万個を販売するヒットを記録。

家庭での天ぷら調理が減少している背景や、油の処理が面倒な点から、新たな調理法を模索。

大さじ3杯の油で揚げずに焼く天ぷらの素が開発され、家庭での天ぷらの復権を目指している。

世界初の“揚げない天ぷら”が異例のヒット 食用油の老舗メーカーの気概「家庭で作る天ぷら文化の火を消さない」

 健康志向や生活環境の変化から食生活への価値観が変わる中、少量の油で手軽に家庭でも天ぷらが作れる『もう揚げない!!焼き天ぷらの素』が、発売から1年半で累計150万個を突破するヒットを記録。製造元の昭和産業は、天ぷら粉を世界で初めて発売し、家庭用から業務用まで生産する、いわば天ぷら粉のパイオニア。ここ30年ほど家庭向け市場の縮小が続く中、家庭料理への天ぷらの復権を掲げ、“揚げずに焼く”天ぷらの素を開発した同社に話を聞いた。

◆時代の変化で家庭調理しなくなった天ぷら 30年ほど縮小続く市場に登場した世界初の“焼き”天ぷら粉

 多くの日本人に好まれる日本食の代表であり、海外からの観光客にも大人気の天ぷらだが、ちょっと贅沢な手間のかかる料理という印象もあるだろう。昭和の頃は縁に網のついた天ぷら鍋を使って、天ぷらを揚げる家庭も多かった。しかし、核家族化が進み、生活スタイルが変わっていくと、家庭で天ぷらを揚げるのは「調理後の油の処理が面倒」「少量だけ作るのが大変」「1人分や2人分だと自分で作るのは逆に不経済」といった認識が一般的になる。

 同時に、オートフライヤーなど高機能厨房機器の普及により、専門店以外の外食店でもメニューに天ぷらが並び、スーパーなどの惣菜でも手頃な価格の天ぷらが増えていくと、天ぷらは家庭料理ではなく、外食や惣菜で食べる料理になっていった。

 そんな状況に危機感を抱くのが、1959年に世界で初めて天ぷら粉を発売した、天ぷら粉のパイオニアとも言うべき昭和産業。ここ30年ほど家庭向け天ぷら粉の市場縮小が続く中、天ぷらの家庭料理への復権を掲げて開発したのが、大さじ3杯の油で天ぷらを揚げずに焼いて調理する『もう揚げない!!焼き天ぷらの素』だ。その開発の背景を、昭和産業・商品開発の水島徳大さんはこう語る。

「天ぷらは多くの人が好きな料理にも関わらず、家庭で作る人が増えないメニューのひとつです。理由として挙げられるのが、油の処理や片付けに手間がかかること。その不満点を解消することで、家庭で天ぷらを作っていただく機会を増やしたいという思いから開発がスタートしました」(水島さん)

 そこで考えたのが、油の量を極力減らし、片付けの負担を軽くする調理法。結果、たどり着いたのが世界初の“焼く”天ぷら粉だ。当時、揚げる代わりに焼く天ぷら粉は市場に存在しない。斬新なアイデアではあったが、開発はゼロからの奮闘になり、約1年の開発期間をかけてようやく完成させた。

「ここ最近では、フライパンに深さ1~2センチの油を入れて揚げる調理法も主流になっていますが、それでもけっこうな量の油を使います。我々が目指したのは、調理後にキッチンペーパーで拭き取れるレベルの油しか使用せず、天ぷらを作ること。小麦粉、澱粉、ベーキングパウダーの種類や配合割合を変える試験を繰り返し、最終的に大さじ3杯の油で、一般的な天ぷら粉と比べて遜色がない仕上がりを実現する『焼き天ぷらの素』を開発しました」(水島さん)