世の中は玉置玲央を放っておかない 鴻上尚史作・演出「朝日のような夕日をつれて 2024」

AI要約

紀伊國屋ホール開場60周年記念公演「朝日のような夕日をつれて 2024」について、玉置玲央の演技や鴻上尚史の劇作家としての役割について述べられています。

劇団「第三舞台」の代表作である本作は、43年前に旗揚げされた作品であり、ハイテンションでスピーディな展開が特徴的です。劇中には深い意味を含んだ言葉も散りばめられています。

演出家・俳優たちの熱意と努力が作品を支える中、小劇場の系譜や舞台裏でのエピソードも紹介され、演劇の世界に思いを馳せさせられます。

世の中は玉置玲央を放っておかない 鴻上尚史作・演出「朝日のような夕日をつれて 2024」

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は紀伊國屋ホール開場60周年記念公演「朝日のような夕日をつれて 2024」について。

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 ドラマ、朗読、ドキュメンタリーと玉置玲央には一頃集中的にラジオに出演してもらった。柔らかく、澄んでいて、それでいて芯のある彼の声はリスナーの心にすっと入って異次元に連れて行ってくれる。そしてその多くが何らかの賞を獲得することができた。

 今年も舞台「リア王」やNHKの大河ドラマなど華々しい活躍だが、僕は、いつだったか、彼の所属する劇団「柿喰う客」下北沢公演の際、自ら往来に出て声を嗄らすようにフライヤーを配っていた姿を思い出す。

 ほんとに演劇が好きなのだと思った。そして世の中は玲央を放っておかないとも。そして、事実、その通りになっている。

 彼の芝居は欠かさず観ているが、この夏は「朝日のような夕日をつれて 2024」を堪能した。

 言わずと知れた鴻上尚史さん率いる「第三舞台」の代表作である。旗揚げは1981年5月15日。43年前、早稲田大学大隈記念講堂裏の特設テント。

 新しいおもちゃを開発すべく玩具会社「立花トーイ」の男5人の奮闘ぶりを描くストーリーだが、その下敷きには不条理劇のシンボル、サミュエル・ベケット「ゴドーを待ちながら」が隠されているという。

「朝日のような夕日をつれて」はレジェンダリーな演目だが、ようやく見ることができた(紀伊國屋ホール開場60周年記念公演)。

 ハイテンションにしてスピーディな言葉の洪水。しかもキレキレの体の動き。効果音や挿入される音楽が入るタイミングは、若かりしつかこうへいの舞台を髣髴とさせ、それが現在の中屋敷法仁まで受け継がれているのかと思った。

 言葉の乱反射、言葉の万華鏡に巻き込まれながら、僕は公演サイトに記された言葉「淋しさは愛に似ている」「理解は別れに似ている」「連帯は孤独に似ている」の意味を探し続けた。そしてそれらは爆笑の渦のところどころに顔を出し、刹那的に僕の熱を冷ましてくれた。

 終演後、玉置玲央を楽屋に訪ねた。

「僕以外の演者はこの演目が初めてなんです。初演時には全員生まれていなかった。鴻上さんは笑いのツボをわかっていて、このセリフを投げてみろ、絶対、ウケるから、と演出してくれて」

「朝日のような夕日をつれて」は劇作家鴻上尚史がこしらえた大きな器である。その器に「今」の言葉をぶち込んで、演者を鍛え、アップデートし続けている。

 開演時、赤いスニーカーを履いた鴻上さんは紀伊國屋ホールの入口に立って、訪れる客に挨拶をしていた。

 その原点に、下北で見たフライヤーを配る玲央の姿を思い出し、小劇場の系譜はこうして綿々と受け継がれているのだと気づいた。

(文・延江 浩)

紀伊國屋ホール開場60周年記念公演 KOKAMI@network vol.20

「朝日のような夕日をつれて 2024」

【作・演出】鴻上尚史【出演】玉置玲央 一色洋平 稲葉友 安西慎太郎 小松準弥

東京:2024年8月11日(日)~9月1日(日) 紀伊國屋ホール

大阪:2024年9月6日(金)~8日(日) サンケイホールブリーゼ

DVD予約受付中

https://www.thirdstage.com/knet/asahi2024/

※AERAオンライン限定記事