ジャーナリスト鈴木哲夫氏は間近で見た 石破茂氏「防災省」提言の熱意と本気度

AI要約

石破茂氏が「防災省」設置を訴える理由と具体的な提案について述べられている。

日本の災害対応が不十分であり、縦割り行政の弊害が指摘されている。

総裁選において各候補者に「防災省」について議論が求められている。

ジャーナリスト鈴木哲夫氏は間近で見た 石破茂氏「防災省」提言の熱意と本気度

 自民党総裁選への出馬表明で「守る」を掲げた石破茂氏(67)。「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「未来を守る」と訴えたが、「国民を守る」ために「防災省の設置」を掲げている。裏金議員への対応については、トーンダウンを感じる石破氏だが、この「防災省」についてはかなり本気だ。その熱意を石破氏本人から直接、聞いてきたのがジャーナリストの鈴木哲夫氏である。鈴木氏は能登半島地震の後、「シン・防災論」(発行:日刊現代、発売:講談社)を上梓した。

「災害大国」なのに、政府の災害対応にまったく進歩がないことに大きな危機感を感じたからだ。その本の最後の章に出てくるのが石破氏の防災論なのだが、その冒頭にこんなエピソードが出てくる。

 能登半島地震から20日が過ぎたころ、鈴木氏は石破茂氏と一緒にテレビ番組(東京MXテレビ「田村淳の訊きたい放題」)に出演していた。そのコマーシャルの間に、石破氏がこう話しかけてきたという。

「何をやってるのか」

「TKBっていうのがある。地震が多いイタリアの話なんだけどね。Tはトイレ、Kはキッチンカー、Bはベッド。ふだんから国がその三つを準備していて、地震発生から48時間以内にTKBを被災地に届ける仕組みができてるんだよね」

「(能登の)避難所はもう20日経っても水がない、食料は行き届いているのか、雑魚寝も続いていると、現地からどんどん情報が入ってきている。イタリアはキッチンカーで温かい食事と一緒にワインも出す。被災者が失意の中にいるときに励ます意味もあると。防災への思想が全然違うんだ」

 問わず語りに続ける石破氏。そして、こう力を込めたというのである。 

「防災省を設置すべきと、東日本大震災のあとからもう10年以上も言い続けている。政府にも何度も質問してきたし党の部会でも散々言ってきたけど、政府も時の首相も乗ってこない。そしてまた、災害のあとの避難所でこうやって同じことを繰り返すんだ」

■縦割り行政に横ぐしを

 ヨーロッパの有数の地震国であるイタリアでは、1992年に非常事態の予測や防止などを担当するイタリア市民保護局という首相直轄の国家機関が設置されたという。

 地震発生時には保護局が指令を出し、48時間以内に避難所へコンテナ型のトイレ、簡易テント、キッチンカー、簡易ベッドが届けられる。簡易テントなどは家族単位の10人程度が入れるものでエアコン完備だ。ため息が出てしまう。

 能登半島地震の際には、3カ月後に起こった台湾での地震対応とも比較された。台湾では立派なテントが立ち、テント1つにベッドが2~3床配備された。温度調節できるシャワー用テントや日用品、食料も充実。避難者は疲れや緊張をほぐすマッサージを受けることもでき、子どもたちにはビデオゲームまで用意されていた。

 一方、能登の避難者は体育館に詰め込まれ、プライバシーのない劣悪な環境での生活を強いられた。この彼我の差は何なのか。それだけに、石破氏の唱える「防災省設置」には耳を傾けたくなるが、「シン・防災論」で石破氏が語ったことは具体的だ。

「かつて国土庁に防災局があり、それなりに恒常的な組織だったが、いま内閣府にある防災担当は各省庁から概ね2年の期限で出向した職員約100名で構成されている。いかに彼らが優秀で懸命に働いていても人数が決定的に足りず、経験や知識の蓄積と伝承に難があることは明白。防災省のような恒常的な組織を作り、その長にはこれまでのような担当大臣ではなく専任の国務大臣を置き、その大臣は、専門的な知識と経験を有する人たち、たとえば民間の専門家や学者など議員以外も含めて専門集団を作り、内閣改造や政権交代に関わらず長期にわたって防災専門の官僚やチームを確立する――、そんな運用も検討に値するのではないか」

 それでなくても、日本は縦割りで、災害が起こるたびに各省庁が補正予算を請求する。知見の蓄積できなければ、災害対応資材の計画的な備蓄もできない。地方自治体との連携もできず、各々の役所がバラバラ、場当たりでやってきたのが日本の災害対応なのである。鈴木氏は著書でこう書く。

《石破氏は防衛相も務め「有事」や「危機管理」と向き合った。地方創生相としては、各省庁にまたがり省益でガチガチの地方関連予算や法律に横ぐしを刺し効率的に予算が使えるように一元化に力を注いだ。「有事」に「危機管理」に「横ぐし」……、それらの経験があるからこそ、「防災省」という組織の具体的な形がはっきりと見えているに違いない。》

 自民党総裁選が迫るいま、候補者たちに「防災省」についても議論して欲しい。