「お疲れさま」と言い合う日本はおかしい…睡眠学者が警鐘「眠らない日本人に起きているこわい変化」

AI要約

睡眠不足や徹夜が引き起こす様々な問題について、専門家の見解を紹介。睡眠不足が引き起こす身体への影響や、パフォーマンスや創造力への悪影響について詳しく解説されている。

企業における従業員の睡眠時間と利益率の関係についても言及され、睡眠が業績に与える影響も示唆されている。

睡眠は食事や運動よりも優先すべき健康要素であり、睡眠不足が引き起こす様々な問題についての理解が求められている。

日本人の平均睡眠時間は6時間台と、先進国で最も睡眠時間が短い。仕事中に眠気を感じる、電車内でうたた寝をするということはよくあるが、専門家によると実は「異常な状態」だという。ノーベル賞候補と目される世界的な睡眠学者、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史教授に「日本人の睡眠の問題点」について話を聞いた――。(前編/全2回)

■食や運動より先に、睡眠に気を付けるべき

 ――健康のために「運動、食事、睡眠」が大切と言われていますが、毎日朝から夜遅くまで忙しいと、時間の帳尻合わせで睡眠時間が短くなるという人が多いかと思います。

 食事、運動、睡眠の中で、真っ先に取り組むべきなのは、私に言わせると睡眠なんですよ。運動と食事に関しては、今日はどのぐらい体を動かして食べたとか、自分で意識できますが、睡眠だけは、自分では客観的にわかりませんよね。

 実は経済産業省の興味深いデータがあって、従業員が「食事、運動、睡眠」のいずれかに問題を抱えている場合、企業にどのくらいの損失リスクを与えるかを試算したんですね。食や運動に問題があると、従業員は生活習慣病のメタボ(メタボリックシンドローム=心臓病や脳卒中になりやすい病態)になる。ところが睡眠に問題があると、損失が約10倍に跳ね上がる。睡眠のエフェクトサイズは凄い。

■睡眠に問題がある人はメタボになりやすい

 ――具体的にどのような影響が身体に表れるのですか?

 睡眠不足も含めて睡眠が悪いと、長期的にはメタボになる。睡眠不足によって、わずか2週間で内臓脂肪が11%も増えたという報告がある。メタボになるわけです。

 それだけでなく、メンタルの不調やさまざまな病気のリスク、中高年以上だと認知症のリスクも上がることがわかっている。身体に長期的な影響が出ます。

■徹夜明けの脳は酒に酔っ払った状態

 病気になりやすくなるだけでなくて、4時間睡眠を5日間、あるいは6時間睡眠を10日間ぐらい続けると、完徹と同レベルに脳のパフォーマンスが低下する。

 徹夜明けの脳のパフォーマンスは、酩酊状態と一緒なんです。アルコール血中濃度0.1%相当で、ほとんど酔っぱらった状態ですね。つまり、徹夜の次の日は脳の認知機能が低下して、本来のパフォーマンスが発揮できないことがわかっている。

 パフォーマンスを改善しようと思うなら、食事や運動も大切ですが、何より睡眠を最初に手をつけるべきですね。

 ――睡眠不足や徹夜明けは、確かに集中力や思考力の低下を体感します。

 それだけでなく、最も重要なのは、睡眠を取った時に、クリエイティビティの源泉となるような洞察力が上がることがわかっているんです。洞察力とは、それまでいろいろ経験してきたことの中から「あ、これは実はこうだったんだ」という新しい洞察、いわゆる、「ひらめき」です。睡眠を取ると、このひらめきが起こるんですね。

 また、睡眠中に脳内で記憶の整理が起こるので、睡眠不足だと記憶力にも影響が出る。

 広い意味で脳のパフォーマンスは睡眠を必要としているわけなんです。それから、感情のコントロールができなくなることも指摘されていますね。

■性格が悪くなり、人間関係もおかしくなる

 ――感情のコントロールができなくなるとはどういったことでしょうか。

 イライラ、くよくよするとか、アンガーマネジメント力、怒りのコントロール力が低下しますね。

 ある研究結果では、利他的行為が抑制されるということも指摘されているんです。つまり、人間性に支障をきたすわけです。端的に言えば、性格が悪くなる。人間関係もおかしくなる。

 ――そうなると会社ばかりか、社会全体に深刻な影響が出ますね。

 会社への睡眠の影響については、慶應大学商学部・山本勲教授の研究(「従業員の睡眠と企業の関係性」、正社員約1万人・上場会社700社対象)で、従業員が良く眠っている企業は、利益率が高いことがわかっている。業績が良いから従業員が良く眠っているわけでなくて、彼らが良く眠っているから業績が良い。

 利益の高い企業ほど、睡眠時間が短いと一般的に考えられているが、実際のデータは違う。要するに、「眠らないとダメ」っていうことなんですよ。