文學界新人賞・福海隆さん バンドの宣伝で初めて小説を書いたら……受賞。「LGBTQ+を陳腐化したい」 連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#16

AI要約

清繭子が新人賞受賞者への取材で、小説家志望としての葛藤を綴る

受賞作「日曜日」が初めて書いた小説である福海隆の経歴と執筆過程

音楽活動からの転身で小説を書いた福海隆の背景と作品への情熱

文學界新人賞・福海隆さん バンドの宣伝で初めて小説を書いたら……受賞。「LGBTQ+を陳腐化したい」 連載「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#16

 小説家志望のライター・清繭子が、文芸作品の公募新人賞受賞者に歯噛みしながら突撃取材する。なぜこの人は小説家になれたのか、(そして、なぜ私はなれないのか)を探求し、“小説を書く”とは、“小説家になる”とは、に迫る。今回の「小説家になった人」は、「日曜日(付随する19枚のパルプ)」が第129回文學界新人賞に選ばれた福海隆さん(旗原理沙子さんと同時受賞)。なんと今作が初めて書いた小説だという。く、悔しい! (文:清 繭子、写真:武藤奈緒美)

第129回文學界新人賞 受賞作「日曜日(付随する19枚のパルプ)」

会社員の私・圭と大学生の佑基は仲睦まじいゲイカップル。ある日、佑基の友人から「そういった」ことに抵抗のないタイプ・れいちゃんを紹介される。「私、同性愛とかのセクシャル・マイノリティのひとたちの愛って本当に素敵だなって思っていて、」と言う彼女は、2人にインタビューしたり、就活の相談に乗ってもらったりと好奇心いっぱいに距離を詰めてくる。2人の平穏な日曜日は果たして守られるのか――。

 福海さんが小説を書いたのは、なんと今回の受賞作「日曜日(付随する19枚のパルプ)」が初めてだという。

「昔、同じバンドにいた友達が小説を書いていて、ちょくちょく見せてくれるので感想を送ってたんです。そのうちに僕も書いてみたいな、と思って。A4で1枚分くらいの小説を書いて、バンドのX(旧Twitter)にアップして、『それはともかく新曲出します』って差し込むボケをやろうとしたんです。それが今回の作品の冒頭の10章と、終わりの19章です(※今作は19章で構成され、10章の次は1章と、現在と過去が交互に語られる)。書いてみたら、これ、なんか完成させられそうだなと思って昨年の春から続きを書き始めました」

 会社員の福海さんは、帰宅後の20時から24時まで毎日机に向かったという。

「すっかりハマってしまって、土日もずっと書いていましたね。例の友達と書いたものを見せ合って意見を出し合っていました。応募先を『文學界』にしたのは彼のアドバイスからです」

 それは……。ずっと小説を書いていた友達ではなく福海さんが受賞したことで、2人の間に軋轢は生まれなかったのですか?

「いや、すくなくとも僕の認識ではなかったですね。というのも、じつはその友達っていうのが、今年『太宰治賞』を獲った市街地ギャオくんなんです!」

 ええーっ!

「イエーイ! 彼も絶対インタビューしてあげてください」

 それはもちろん! それにしても初めての小説で受賞はすごいです。これまで、小説とはどんなふうに関わってきましたか。

「中学で毎朝10分読書する時間があって、そこで小説の面白さを知りました。両親が毎年、直木賞と芥川賞の受賞作は買う人たちだったので、勧められるまま読んでいましたね。『蹴りたい背中』とか『号泣する準備はできていた』とか。でも、『蛇にピアス』はちょっとまだ早いって止められましたけど(笑)。親が浅田次郎さんのファンだったので、浅田作品もよく読みました。バンドでは歌詞とかフライヤーの文章とかは書いてましたけど、小説を書こうと思ったことはありませんでした」

 表現活動としてやってきたのは、文学じゃなく音楽だったんですね。

「幼稚園の頃からクラシックピアノをやってきて、中学生くらいから曲を書き出して、バンドをやって……と、ずっと音楽一辺倒です」