日本初のシリア人医師・メルナ・アイルードさん:「何事もやってみなければ分からないでしょ!」

AI要約

シリア人として初めて、日本の医師免許取得を成し遂げたメルナ・アイルードさんの苦難の道のりについて紹介。

メルナさんはシリアで医学部を卒業し、日本へ留学した際に臨床医を目指し、医師国家試験を突破する過程で大きな壁に直面。

彼女の医師を志すきっかけや、臨床医としての夢、父親からの影響などが明かされる。

日本初のシリア人医師・メルナ・アイルードさん:「何事もやってみなければ分からないでしょ!」

八山 勇士

シリア人として初めて、日本の医師免許取得を成し遂げたメルナ・アイルードさん。来日するまで全く日本語を話せなかった彼女が、「絶対に無理」と言われながらも、医師国家試験を突破するまでの苦難の道のりを紹介する。

「日本に来るなんて一度も考えたことはなく、来日した時に話せた日本語は『こんにちは』だけでした」

そう語るメルナ・アイルードさんは2022年春、シリア人として初めて日本の医師国家試験に合格した。アラブ人としては、以前nippon.comでも紹介したエジプト人眼科医オサマ・イブラヒムさんに続く2例目で、女性では初の快挙だ。

メルナさんは1990年、シリア北部のアレッポで生まれた。名門・アレッポ大学の医学部を首席で卒業し、2014年に医師免許を取得。周りの医師の多くは米国や欧州で専門分野を学んでいたため、メルナさんも留学を見据え、ドイツ語上級試験にパスしていたという。

人生が思わぬ方向に転がったのは、創薬研究に取り組む夫が日本に留学したことだった。「ドイツ留学を決めていた私にとって、日本に行く決断をするには勇気が必要でした。これまで行くことすら想像しなかった国で、全く異なる生活を始めるのですから」と振り返る。しかし、2015年10月に来日したメルナさんは、あいさつ程度しか日本語が話せなかったにもかかわらず、日本で臨床医になることを目標にした。

2016年1月から、東京都内にある大学医学部の循環器ラボで研究生活をスタート。午前中は日本語学校、午後からは大学へ通った。日本での生活に馴染むにつれ、言葉や文化をもっと学びたいとの思いが日増しに強くなったという。

それでも、心の中は常に、もやがかかったままだった。アラブ人だけでなく、海外から日本に来ていた医学関係者に「どうしたら臨床医になれるのか」と片っ端から質問したが、誰からも「絶対に無理」「必ず諦めることになる」といった答えしか返ってこなかったからだ。大きな壁となったのが、高度な日本語能力を必要とする医師国家試験。通常、外国人医師は、日本の医師免許がなくても従事できる研究職に就くケースがほとんど。しかし、メルナさんは幼い頃から、患者に寄り添う臨床医になることが夢だった。

医師を志したのは、健康オタクだった父親の影響が大きい。アイルード家では毎日体操し、食事のバランスに気を配り、どんな小さな症状でも必ず病院に行くことになっていた。メルナさんは「 “健康が幸せにつながる”が父の信念で、体調管理の必要性を叩き込まれました。私自身も、人の健康や患者さんの回復のために貢献したいと考えるようになりました」と語る。

人懐っこい人柄も臨床医向きだった。「人とコミュニケーションするのが大好き。患者さんの話を聞いて寄り添い、病気で不安な気持ちを和らげられるような医者になりたい」と思った。そんなメルナさんだから、ラボでの研究生活に満足できるはずはなかった。常に心の片隅で「病院の廊下で患者さんたちと触れ合いたい」と願っていた。