「困難な時代の五輪で、心から応援したいと思える人を見つけた」稲垣えみ子

AI要約

テレビを手放したせいもあるが、近頃、五輪にほぼ興味を持てないでいる。かつては日本選手を熱狂的に応援していたが、今回は違和感を覚えている。しかし、難民選手団の姿に触れ、彼らの困難な過去と希望に満ちた未来に感動し、前向きな姿勢を持つことができた。

難民の数が増加し、世界中で困難な状況に置かれている中、難民アスリートの姿は希望を与えてくれる。現代の困難な時代において、彼らの挑戦に心から応援したいと思わせる。

五輪が開催される時代の中で、難民の増加や災害による脅威がありながらも、難民アスリートの闘志は世界中に勇気を与える。彼らの姿に触れ、新たな視点で五輪を捉えることができた。

「困難な時代の五輪で、心から応援したいと思える人を見つけた」稲垣えみ子

 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 テレビを手放したせいもあるが、近頃、五輪にほぼ興味を持てないでいる。何よりあの「ニッポンがんばれ」の国民的情熱に乗れなくなった。前はそうじゃなかったのだ。昔すぎて恐縮だが、札幌五輪の時は「日の丸飛行隊」(もう知ってる人も少ないでしょうが……)が90m級ジャンプで惨敗するのをテレビで見て号泣し家族をドン引きさせた小学生だったし、その後もずっと、日本の選手といえば当たり前に親戚のように思い熱く応援しておりました。

 でも今や親戚どころか、「日本人だから分かり合える」ことすら日常生活においても超レアになった分断の時代である。なのに五輪の時だけ、日本選手が勝った負けたで一喜一憂するのも、メダル獲得数を国別に競うのも、どうにもしっくりこないんですよね。

 でも今回の五輪には私、突然注目しておりまして。先日、2021年東京五輪に出場した難民選手団を追ったドキュメンタリー映画「難民アスリート、逆境からの挑戦」をオンラインで見たせいである。

 彼らの戦いぶりはマジで凄かった。難民とは一体どういう存在なのか、何も知っていなかったことを思い知らされた。普通に暮らしていた人が、紛争や迫害に見舞われ故郷を追われ居場所を失う。そんな心身を破壊されるような悲劇の中にあって希望を失わず前進することがどれほど切実なことか、東京行きに全てをかけ全力で戦う難民アスリートの姿を見て、私は初めて、あのひどい状況の中で兎にも角にも東京で五輪を開いたことを前向きに捉えることができた。そして、この困難な時代に困難と戦う選手の姿は、全然知らない国の人なのに全く他人事じゃなかった。私は心から応援したいと思える人を見つけたのだ。

 難民の数は12年連続で増えていて、2024年で1億2千万人と過去最多。世界はとてもまずいことになっていて、それを誰も食い止めることができないでいる。我が国でも頻発する災害で今も多くの人が故郷を追われ、困難な暮らしを余儀なくされている。そんな時代の五輪である。

いながき・えみこ◆1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。著書に『アフロ記者』『一人飲みで生きていく』『老後とピアノ』『家事か地獄か』など。最新刊は『シン・ファイヤー』。

※AERA 2024年8月12日-19日合併号