「ウー!」「シャー!」 南の島で“駆除”された美しい猫エルメスが「空気砲」を卒業するまで

AI要約

遠く離れた沖縄の地で駆除対象とされた猫、エルメスの物語。

南大東島での猫の駆除事業やエルメスの保護、そして人慣れさせる過程。

預かりボランティアさん宅でのエルメスの成長と変化。

「ウー!」「シャー!」 南の島で“駆除”された美しい猫エルメスが「空気砲」を卒業するまで

 さまざまな縁がつながって、過酷な環境から助け出された猫たちがいます。新しい家族に出合うその日まで、1猫1猫のしあわせを願って、保護猫カフェねこかつ代表の梅田達也さんが綴ります。

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 埼玉にある保護猫カフェねこかつで保護している猫の中には、遠く離れた沖縄の地で駆除対象とされてしまった猫もいます。エルメスもそんな猫のうちの1頭です。

 とても美しく、そしてまったく人に慣れていないエルメスは、沖縄の離島南大東島で駆除対象とされた猫でした。エルメスという名は、ねこかつのボランティアさんが名付けました。不要とされた命にハイブランドの高価な名前。美しいエルメスにはぴったりな名前だと思っています。

 沖縄の南大東島では、公衆衛生上の支障になるという理由で、外猫の駆除事業が行われています。南大東村では「猫条例」が制定されています。「村長は飼い主の判明しない猫等を保護収容することができる」

 私が開示請求をすると、こんなことがわかりました。

「保護収容された所有者不明ネコは/約1週間飼育し、島内における引取り手を募集する。引取り手のない個体については村と協議の上、安楽殺を実施する」

 人口が1000人しかいない村で、インターネットで掲示もしなければ、譲渡が成立することは難しい。これはすなわち、屋外の猫をすべて駆除・殺処分していくということです。

 驚くことに、ここ数年で、捕獲された数百頭もの猫たちが島内で薬殺されていたことがわかっています。この猫たちの殺処分数は国も沖縄県も把握していなかったため、環境省の発表する殺処分数にもカウントされていませんでした。

 この南大東島での猫の駆除事業は、国の動物愛護法改正の会議の場でも問題視されていますが、改善の兆しはみられていません。

 エルメスは、南大東島の駆除事業で捕獲され、殺処分の対象となりましたが、なんとかねこかつで保護することが叶いました。

 美しいけれど、猫にとっては日本一厳しい土地で生きてきたエルメスは、まったく人に慣れていませんでした。ご飯皿を代えようとするだけでお皿を叩き落とす。人影が見えるだけで「ウー!」と唸っている。

 新しい飼い主さんを見つけるために、できる限り人慣れさせたほうがいい。こういった人に慣れてない猫を人に慣れさせる、預かりボランティアさんに託すことにしました。

 預かりボランティアさんとは、保護した猫を一般家庭で一定期間預かってもらうボランティアさんのことをいいます。生まれたばかりの乳飲み子をある程度の大きさになるまでお世話をするミルクボランティアや、エルメスのように人に慣れていない猫を人に慣れさせるボランティアなどがいます。

 エルメスを託す預かりボランティアさん宅には、ほかの猫はいません。エルメスの人間とだけの生活がはじまりました。

 預かりさん宅でも、エルメスの威嚇は続きました。近くを通るだけでも、「パッ!パッ!」と空気砲が飛びました。

 しばらくすると、預かりさん宅の生活にもなれ、運動神経の良いエルメスは、部屋の中を縦横無尽に駆け回るようになりました。ただ、「シャー!シャー!」や「パッ!パッ!」といった空気砲はあいかわらず続きました。

 そして1月半もすると、食いしん坊なエルメスは、手からおやつを食べるようになりました。ただ、「シャー!シャー!」や「パッ!パッ!」といった空気砲はまだまだ変わりませんでした。