子どもの車内放置 保護者は「常に危機感を」、発見時の「対応にやり過ぎはない」…2児の専門医が切実訴え

AI要約

猛暑が続く中で、子どもの車内放置は熱中症のリスクが高い。赤ちゃんの体温調節機能が未発達で、汗をかけない分熱中症になりやすい。熱がこもりやすく脱水症状も起こりやすいため、赤ちゃんは危険。

密閉された車内は危険度が増し、短時間でも危険。赤ちゃんを発見した場合は、第一に救急車の通報が重要。待つ間に体を冷やし、水分を補給することが大切。

さらに、他の車内で赤ちゃんを発見した際も離れずに待つ。状況に応じて管理者や警察への連絡を考えることが重要。

子どもの車内放置 保護者は「常に危機感を」、発見時の「対応にやり過ぎはない」…2児の専門医が切実訴え

 連日の猛暑が続く中で、熱中症のリスクが高まり続けている。車に乗る際に、夏場の買い物や用事で注意しなければいけないのは、子どもの車内放置だ。毎年、高温の車内に取り残された末に子どもが命を落としてしまう悲惨な事故が後を絶たない。保護者の立場として「ちょっとの短時間だから」といった安易な考えは絶対に避けたい。また、商業施設などの駐車場で車内に1人でいる赤ちゃんを見つけた場合、第三者としてどんな対応が適切なのだろうか。長年、熱中症の診察・治療に従事してきた専門家で、あんどう内科クリニック院長(岐阜市)の安藤大樹医師に聞いた。

 大人であっても健康上の危険にさらされる連日の酷暑。子どもの車内放置は依然として解決が進まない社会問題だ。高温の車内に放置されると、赤ちゃんにとってどんな危険が及ぶのか。安藤医師は熱中症のメカニズムについて医学的に解説してくれた。

 まず、赤ちゃんは大人に比べて体温調節機能が十分に発達していないため、もともと暑さに弱い体質だという。「特に、汗をかく機能が発達していないため、大人に比べて汗をかき始めるまでの時間が長く、体温を下げ始める前に熱が体にこもってしまい、体温が上昇しやすくなります。また、赤ちゃんに限らず、思春期前の子どもは汗をかけない分、皮膚の血管を拡張させて熱を放散することで体温を調節しようとします(子どもが暑い中で顔を真っ赤にして遊んでいるのはそのためです)。しかし、体の温度より外の温度の方が高ければ、逆に熱が外から中に入ってきてしまい、熱を放散することができなくなってしまうのです」。

 子どもは大人よりも全身に占める水分の割合が高いという特徴もある。「一度汗をかき始めるとより多くの汗をかくため、あっという間に脱水症状を起こしてしまいます。特に、チャイルドシートに座っている子どもは背中に汗がこもって体温が上がりやすくなり、熱中症のリスクが極めて高くなります」と指摘する。

 ここで浮かび上がるのは、ダブルパンチのリスクだ。「この『熱のこもりやすさ』と『脱水症状の出やすさ』のダブルパンチのため、赤ちゃんの熱中症は、急速に進行する危険性があります。日本救急医学会が発表した『熱中症診療ガイドライン2024』では、熱中症の重症度をI度、II度、III度と分類し、さらにIII度の中の『深部体温が40度以上』『意識状態が悪い』ものをIV度として、注意喚起を行っています。IV度の場合、心臓、肺、腎臓、肝臓、脳などの重要な臓器に強いダメージを与えてしまい、適切な対応がとられない場合は約80%の人が死に至ると言われています。乳幼児を社内に放置した場合、短時間でも急速にIV度まで進行してしまうことがありますので、最大限の注意を払う必要があります」。

 短時間でも密閉された車内は危険度が増す。「最近、『暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)』が一般的になってきました。熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標で、日本生気象学会はWBGT25以上を『警戒』、28以上を『厳重警戒』、31以上を『危険』と規定しています。日本自動車連盟(JAF)が、2012年8月、気温35度の状態で車内のエアコンをオフにした場合のWBGTの変化を報告しています。その結果、エアコンをオフにした5分後にはWBGTが警戒レベルの25を超え、10分後には28、15分後には31を超えていました。最初25度だった車内温度は5分後には約30度、30分後には約45度にまで上昇しています。赤ちゃんの場合、5分の放置でも熱中症のリスクが高まり、30分の放置では命の危険もあると覚えておいてください」とのことだ。

 この夏も、車でレジャーに出かけたり、大型商業施設やロードサイドのコンビニに車で立ち寄ったりする人は多いだろう。第三者として、車内放置の子どもを発見するケースも考えられる。その場合、どのような行動に出ることが求められるのか。

「一般的に、熱中症は意識の状態や水分がとれるかで対応が変わりますが、赤ちゃんの場合はいずれも評価することが難しいです。そのため、発見時に赤ちゃんがぐったりしている場合は、III度以上の状態と考えて対応する必要がありますので、迷わず救急車を呼んでください」。第一に119番への通報が大事であると強調する。

 救急車を待つ間にできる応急処置があるという。

「ただ待っているだけではいけません。まずは熱くなっているチャイルドシートから子どもを外し、クーラーが効いている屋内の部屋で、あおむけに寝かせてください。救命のためには人員も必要ですので、近くのお店やオフィスに助けを求めることを躊躇(ちゅうちょ)しないでください。体を締め付けるような衣類は極力脱がし、保冷剤やぬれたタオルで首、脇の下、太ももの付け根、手のひらや足の裏など、血液の流れの豊富な場所を冷やしてください(いわゆる『冷却シート』では効果がありません!)。乾く前に体をぬらし続け、うちわや扇風機で風を送り続けてください」

 赤ちゃんが水分が飲める場合の対応とは。

「積極的に水分をとらせてください。赤ちゃん用の経口補水液『アクアライト』や授乳中の場合は母乳やミルクがあればベストですが、なければ水でも構いません。ただ、意識が悪かったり吐いたりしている時は誤嚥(ごえん)の可能性もありますので、無理強いはしないようにしてください。救急隊が到着するまでは、ひと時も気を抜いてはいけません」と説明する。

 とっさの対応にも冷静な判断が重要だ。安藤医師はさらに力を込める。

「もしかしたら、あなたが他の車の中に放置された赤ちゃんを発見するかもしれません。すぐに親御さんが戻ってくるとも限りませんので、その場を離れないようにすることが大切です。エンジンが切れている、赤ちゃんが汗だくになっている、激しく泣いている、ぐったりしているなどの場合は緊急性を要します。現場がお店の駐車場なら管理者に連絡を試みましょう。店内に親御さんがいる可能性も高いですし、少なくとも人を集めることができます。さらに緊急性が高いと考えた場合は、警察や救急に連絡し、指示を受けることも考えてください」