金大中氏拉致 容疑者聴取なく政治決着で終結 警視庁150年 61/150

AI要約

韓国の政治家金大中氏が日本の首都で拉致され、韓国中央情報部の関与が疑われる事件が発生した。

警視庁は事件を捜査し、実行犯の一人を在日韓国大使館の書記官と特定したが、韓国側の協力が得られず、捜査は終結した。

事件は後に韓国政府によって組織的な犯行と認定され、日韓関係に影響を与えたが、容疑者の聴取が一度も行われず政治決着を迎えた。

日本の首都で白昼、韓国の政治家が何者かに拉致される事件が起きた。軍事独裁政権だった韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)政権を批判していた野党指導者、金大中(キム・デジュン)氏が昭和48年8月8日、滞在中のホテルグランドパレス(東京都千代田区)22階の部屋を出たところを拉致・連行され、5日後にソウルで解放された。

当初から韓国中央情報部(KCIA、現在の国家情報院)の関与が疑われており、警視庁は残された指紋から実行犯の一人が在日韓国大使館の一等書記官と割り出したが、韓国側は出頭を拒否した。書記官がKCIA要員かも認めずに不起訴処分とし、捜査終結を通告。日韓両政府は二度にわたる政治決着を図り、警視庁は58年に捜査本部を解散した。

ただ、事件はその後も動きを見せる。平成5年に金大中氏が来日した際、初めて警視庁の短時間の聴取に応じている。

2007(平成19)年10月には、韓国政府の「真相究明委員会」がKCIA要員と駐日公使ら計27人による組織的な犯行と認定。韓国の公的機関による日本に対する「国家主権侵害」にも当たり、当時の韓国の駐日大使が外務省で日本の外相に韓国政府を代表する形で遺憾の意を伝えた。

金大中氏はその2年後の2009(平成21)年に死去。日韓関係にも影響を与えたこの事件は、日本側が容疑者を一度も聴取することのないまま、政治決着という後味の悪い形で終結した。(大渡美咲)