「日本の子どもには学力はあっても、足りないものがある」東大准教授が指摘する“日本式の勉強方法”への疑問

AI要約

日本の勉強方法と教育システムについて考察している情報理工学博士の山口先生。世界的な視点から、日本の教育の強みと課題について述べる。

日本の教育システムは、学力の向上に成功している一方で、アグレッシブさやアピール力に欠ける側面があると指摘。日本の学生の特徴と課題について考察する。

日本の勉強方法は世界的に見ても素晴らしいと評価されているが、社会での展開能力に課題があると山口先生は述べる。

「日本の子どもには学力はあっても、足りないものがある」東大准教授が指摘する“日本式の勉強方法”への疑問

子育てに直面したときに、巷で耳にする、あんなウワサ、こんな説。それってほんとうに根拠があるの? 

これまで、気になる論文を読んできた、情報理工学博士の山口先生が、世の中にあふれる「子育て説」を科学の面から一刀両断。現在子育てに悩んでいる方、なにかヒントが見つかるかもしれません。

今回は「日本式の勉強方法」​についてお話しします。

読者の方からいただいているご質問の中で、特に印象に残ったことがあったので、今日はそれについてお話ししようと思います。あくまで私見です。

日本は、世界でまれに見る識字率の高さを誇り、どのような子でも足し算や引き算、九九など簡単な計算であれば、義務教育終了後、高い割合で「できる」と言えるでしょう。

一方で、諸外国を見てみると、どうしても貧富の差が生じていて、たとえ先進国のアメリカやフランスであっても、貧しい層と呼ばれる人たちたちは識字率も著しく低く、加えて計算をすることはできません。

路上生活をしている人たちの中で、計算や読み書きができるのは日本だけ、とも言われています。

世界的に優秀な研究成果を出している研究者も日本には多数います。

私の所属する東京大学だけでなく、他の国立大学、私立大学、国内のすべての大学において、新しい研究成果を出し続けることができています。これは日本がとても恵まれているということができるでしょう。

最近、ノーベル賞の取得などが減ってきたり、日本の研究が上手くいってない、と言われたりもしますが、全くゼロではないのです。この現状から考えると、日本の教育そのものが世界で劣っているとは言いがたいかと思います。

さて、日本の勉強方法をなぜ疑問に思うのか、というのをちょっと考えてみたいと思います。

東京大学の学生のように優秀な学生というのは、世界でまれに見るほど優秀だと思います。他の国のトップレベル大学に所属する学生があまねくそうであるかというと、日本ほどではないかなとも思います。

「日本の大学は頑張らなくても卒業できる」といった話もありますが、そこまでの勉強過程があまりにも違いすぎるので、卒業時の学力は他の国のトップレベルの大学と比べてもさほど差がないかもしれません。

一方で、日本の学生に欠けているのは、ハングリーさ、アグレッシブさなど。他の人たちへの主張の弱さ、アピール力のなさなどが気になります。

他国から日本に研究のアピールをしに来る学生さんというのは、大変アピール力があり、説明が上手で、どんなに小さい成果であったとしても、「こんなにすごいんです!」と見せることに長けています。おそらく幼少期から自分の良さについて真剣に考え、人に説明し、自分に自信を持たせるという訓練が他国ではなされているのだと思います。

日本の学生は、このような他国の学生からはほど遠い状況と言えるでしょう。

逆の言い方をすると、真に素晴らしい技術、世界に通用する事柄を生み出すことができるけれど、それを少し遠慮気味に説明してしまうというのが日本人の特徴と言えると思います。だからこそ平穏で、人とぶつからないし、みんな同じ立場で議論ができるというのが素晴らしいのかもしれません。

こういうバランスは、どのあたりに落としどころがあるかは難しいところです。

私は日本の勉強方法そのものが世界と比べて劣ってるとは全く思いません。

大学入学のレベルで考えると、日本の勉強の方法は世界的に見ても稀に見るほど素晴らしいものだと思います。一方で、その学力を使って、社会で力強く生き抜いていく力に欠けているのだとも感じます。

7歳の子どもを持つ母親で、博士(情報理工学)。普段は、東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授として、情報系の研究を推進。また、情報オリンピック日本委員会や国際大学対抗プログラミングコンテストのメンバーとして、中高・大学生の数理情報科学教育の振興にも邁進。趣味はクラシック音楽。