高校野球「7イニング制」検討、強豪校だけ9イニング制で甲子園を目指せばいい理由…そもそも実力差がありすぎる

AI要約

今年の夏の甲子園は、猛暑下での開催が問題視される中、7イニング制の導入が議論されている。

7イニング制の導入には賛否があり、強豪校と一般の高校の選手の実力差などを考慮する必要がある。

選手の健康や省エネ、気候変動対策として、野球界での大きな変化が検討されている。

 「夏の甲子園」として親しまれる第105回全国高校野球選手権大会は8月7日、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)を舞台に開幕する。近年、厳しさが増す一方の猛暑下での開催には、批判の声が高まっている。

 今年からは、気温が上昇する昼間の時間帯を避け、朝と夕方以降に分けた「2部制」を導入するのに加え、主催する日本高校野球連盟(日本高野連)は将来的に試合を7回で打ち切る「7イニング制」の検討に入った。「2部制」が小手先の対策だとすれば、7イニング制は、高校野球そのものを変える劇的な変化をもたらす可能性がある。

 このため、日本高野連も議論には慎重な構えを見せ、現場の指導陣の賛否も割れる。そんな7イニング制について、あえて問いたい。

 プロ選手を輩出するような強豪校と、部員集めにも苦戦する大多数の高校が「同じ土俵」で戦うことの是非から議論を進め、高校野球そのものを「クラス分け」するという選択肢は検討できないだろうか。

 (田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 日本高野連は6月から、7イニング制の検討についてワーキンググループ(WG)を設置し、専門家などを交えて本格協議をスタートさせている。朝日新聞によれば、海外の高校年代では、米国や韓国、台湾、カナダ、ベネズエラなどが7イニング制を採用する一方、メキシコ、パナマ、プエルトリコなどは日本と同じ9イニング制だという。

 WGは海外の状況などを分析するとともに、7イニング制のメリット、デメリットを整理し、12月開催予定の日本高野連の理事会で整理した内容を報告する。日刊スポーツによると、甲子園大会に限らず、地区大会なども含む全公式戦への導入が議論されているという。

 背景には、高校球児の肩やひじの負担を含めた健康面への配慮、気候変動による猛暑の中での試合時間の短縮などがある。

■ これまでの猛暑対策は9イニング制が前提

 高校野球はこれまでも引き分け再試合にするまでの延長回数を短縮し、2018年からは早期決着を目的とした無死1、2塁から攻撃を始める「タイブレーク」を実施。甲子園期間中に試合を行わない「休養日」を設け、20年からは投手の球数制限も導入した。

 暑さ対策には、昨年の夏の甲子園から5回終了後に選手たちが涼しい環境で休息を取れる「クーリングタイム」も導入した。ただ、こうした変更は9イニング制が前提だ。

 7イニング制には、早くも高校球界の指導者から賛否の声がメディアで紹介されている。

 朝日新聞の記事では、今春の選抜で準優勝した報徳学園(兵庫)の大角健二監督は「時代に合わせて進化することは必要」と一定の理解を示すが、大阪桐蔭の西谷浩一監督は「野球は8回、9回が大事だと思っている。僕個人としては9回やらせてもらいたいなっていう気持ちは持っている」との見解を示している。ほかにも、選手の出場機会が減ることや、戦い方そのものが変化するとの指摘もある。

 選手への影響はどうか。

  例えば、超高校級と呼ばれる投手は卒業と同時にプロ入りし、即戦力で活躍するケースもある。プロと高校でイニング数が変われば、対応に時間を要することが予想される。実情では強豪校の選手たちはプロや大学、社会人といった上のカテゴリーを目指して日々の練習に打ち込んでいる。

 一方で、大半の高校は、野球をクラブ活動として楽しんでいる選手たちである。高校野球は「プロ選手を養成するための場ではない」という指摘もあるだろうが、明らかに実力差のある高校を同じ評価軸で、7イニング制の是非を議論することがはたして妥当なのだろうか。