尿路上皮がん治療最前線…全生存期間がグッと延びている

AI要約
尿路上皮がんの治療成績が大きく変わりつつある。免疫チェックポイント阻害薬の登場により、全生存期間が延びている。新薬の登場や分子標的薬の研究も盛んである。
尿路上皮がん治療最前線…全生存期間がグッと延びている

 尿路上皮がんは、かつて「残された難治性がんのひとつ」と言われるほど、予後が悪いがんだった。しかしこの数年、治療成績が大きく変わった。「虎の門病院」臨床腫瘍科部長の三浦裕司医師に聞いた。

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 手術や放射線といった局所治療でがんの除去が困難な場合、治療のメインは薬物による全身治療となる。

 現在、多くのがんで用いられているのが1965年に発見されたシスプラチンと他の薬剤を併用する治療法だ。尿路上皮がんも例外ではない。

「2000年まで使用されていた併用療法(MVAC療法)は非常に副作用が強いため、それをマイルドにする方法として08年に抗がん剤ゲムシタビンとの併用(GC療法)が承認されました。しかし、腎・心機能低下の患者さんには使いづらく、更には多くの患者さんは半年過ぎた頃からがんが増悪し、その後、他の薬に切り替えても1年少ししか生存できませんでした」

 さまざまな新薬が登場し、予後不良のがんの治療成績が向上する中、2000年代になっても尿路上皮がんの臨床試験ではことごとくネガティブな結果が出る状態が続いていたという。

■免疫チェックポイント阻害薬の登場が転機に

 ターニングポイントとなったのが免疫チェックポイント阻害薬の登場だ。私たちの体には「異物を見つけて攻撃する働き」と「攻撃にブレーキをかける働き」の両方が備わっている。がんは「ブレーキの働き」を利用し、免疫細胞ががんを見つけて攻撃するのを止める。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞にかかった「ブレーキ」を外し、本来の働きを取り戻させる薬だ。

「進行尿路上皮がんにも17年に免疫チェックポイント阻害薬が承認。GC療法後の『2次治療』として使われることで、それまでの全生存期間14カ月から17カ月に延びました。そこで次に、1次療法における免疫チェックポイント阻害薬とGC療法の『併用治療』の臨床試験が2通り実施されました。しかし、どちらも期待していた効果は得られなかった」

 一方、ほぼ同じ時期に行われていた臨床試験が免疫チェックポイント阻害薬の「維持治療」だ。前出の2次治療は「GC療法が効かなくなった後、次の策として免疫チェックポイント阻害薬を使う」。併用治療は「GC療法をやりつつ、併用して免疫チェックポイント阻害薬を使う」。これらに対し維持治療は「GC療法の効果維持のため、GC療法後に免疫チェックポイント阻害薬を使う」。

「併用ではなく維持として用いることで全生存期間がグッと延びた。昨年のASCO(米国臨床腫瘍学会=世界最大のがん学会)では、維持治療の追加解析として、GC療法開始時点を起点として30カ月近くの全生存期間を得たことを示す研究結果が発表され、参加者から喝采をもって受け止められました」

 さらに登場したのが、1次治療として、抗体薬物複合体(ADC)と免疫チェックポイント阻害薬を併用する方法だ。ADCは抗体に抗がん剤などの薬を付加した薬で、免疫チェックポイント阻害剤に並ぶ次世代のがん治療薬として国内外で研究開発が積極的に行われている。

「臨床試験でGC療法を基盤とした従来の治療と比べ、有意に無増悪生存期間と全生存期間を改善。31カ月間の全生存期間中央値が得られ、今年3月に世界的権威のある医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』で発表されています」

 この臨床研究で用いられたADC(一般名:エンホルツマブ ベドチン)は、進行尿路上皮がん1次治療への適応追加に関して承認申請中だ。

 最前線では、遺伝子変異を有するがんへの分子標的薬を用いた治療も盛んだ。尿路上皮がんでは行われていなかったが、それが変わるかもしれない。臨床研究で有意差がある結果が出て、昨年11月、FGFR遺伝子変異を有する進行尿路上皮がんへの分子標的薬の承認申請が行われたのだ。

「尿路上皮がんでFGFR遺伝子変異を有する症例は必ずしも多くないとはいえ、シスプラチンしかなかった時代と変わり、やっと新しいメカニズムの薬剤やそれらの薬剤のコンビネーションで乗り越えられるとの結果が出てきたと言える」

 今後どうなっていくのか。目が離せない。

※記事内の免疫チェックポイント阻害薬は、「ペムブロリズマブ」「アベルマブ」「ニボルマブ」など、それぞれ別の薬となる。