陽子線でがんを狙い撃つ(1)従来の放射線の効果を上回る

AI要約

陽子線治療は体への負担が小さく、効果が高いがん治療方法として注目されている。最新の治療技術であるIMRTでは、がんに集中してX線を当てられるようになっているが、X線には限界があり、周囲の正常組織に損傷を及ぼすリスクがある。

陽子線治療は、X線のように表面から深さに応じて線量が変化する特性がないため、正常組織の被害を最小限に抑えながらがんに集中して治療ができる。日本では陽子線治療が導入されたのは1998年で、今回岐阜県の中部国際医療センターでも診療が開始された。

今年の保険適用拡大では、早期肺がんや頭頚部以外のがんにも対応が拡大されたが、手術が困難な症例に限られる。陽子線治療の利点として、放射線の副作用が少ないことが挙げられる。

陽子線でがんを狙い撃つ(1)従来の放射線の効果を上回る

 体への負担が小さく、効果が高いがん治療として世界で注目を集めているのが陽子線治療だ。

 2016年に小児腫瘍(限局性の固形悪性腫瘍)が初めて保険適用になり、2018年、22年、そして今年の診療報酬改定で、新たに保険適用のがんが追加された(囲み参照)。

 そんな中、3月1日に国内20施設目となる陽子線センターが診療を開始した。岐阜県の中部国際医療センターだ。施設長を務める不破信和医師は、20年近い陽子線の治療経験を持つ。

 陽子線治療は、がんの三大治療(手術・薬物・放射線)のうち、放射線治療に含まれる。

「放射線治療は1895年にX線が発見されたのが始まりで、翌年には治療が開始されています。しかし当初は体の表面のがんにしか対応できませんでした。放射線の進歩はまず、いかに深部に放射線を集めるか。次に、いかにがんのみに放射線を集中させるか」(不破医師=以下同)

 最新の放射線治療であるIMRT(強度変調放射線治療)では、いびつながんの形に合わせて照射範囲や強度をコンピューター制御で常に変化させ、がんに集中してX線を当てられるようになっている。

 ただIMRTにも限界がある。X線の性質上、線量のピークは皮膚面から数センチの深さ。それを過ぎると線量が落ちるので多方面から照射する。「がんには高線量、正常組織には低線量」とはいえ、がん周辺の正常組織の損傷は免れない。

「進行肺がんに対して、X線の線量による生存率を比較した研究があります。当初は線量を増加した方が治療成績が向上するとみられていたのですが、結果は線量が高い方が生存率が低かった。両群とも肺の障害には差がなかった。一方、線量が高い群では肺に近い心臓が損傷をより受けており、その心障害で生存率が下がったと考えられています」

 そこで登場したのが、陽子線治療だ。日本では1979年に放射線医学総合研究所、1983年に筑波大学で臨床研究が開始され、1998年に国立がん研究センター東病院に世界で2番目となる医療専用陽子線施設が導入された。 (つづく)

※今年新たに保険適用となったのが、早期肺がんで手術不能のもの。他に頭頚部では咽喉頭・口腔扁平上皮がん以外、膵がん、肝細胞がんなどがある。ただし「手術が困難」など条件に該当する場合に限る。