<一冊一会>さまざまな「たたかい」をテーマに歴史を振り返る5冊

AI要約

日本人の戦後の過ごし方や難民問題、戦時中の行動を考える機会

日ソ戦争の背景と米国の関心、意思決定の重要性

英西の覇権争い、遭難事件の描写と歴史的背景について

<一冊一会>さまざまな「たたかい」をテーマに歴史を振り返る5冊

今月は「たたかい」をテーマに選びました。いま一度、考え直す機会としていかがでしょうか。

 敗戦後、満州や朝鮮半島で暮らしていた日本人は難民、棄民となった。朝鮮半島は38度線で区切られ、以北にいた人々は移動ができなくなった。そんな人々を集団脱出させた松村義士男は戦前、左翼として監視されていた。引き揚げの最中に体を張ったのは、人から蔑まれるような仕事している女性だった。戦前に力を誇示していた軍人や政府関係者が役に立たない中で、こうした名もなき人々が多くの人の命を救ったことを忘れてはならない。

 日ソ戦争の全貌について新資料を基に考察していく。ある意味、当然ではあるが、樺太や千島列島について注目していたのは米国だ。この地域を確保できれば容易に日本の各都市を空爆することができる。米ソの亀裂が深まる勢力圏争いの中で、ソ連の対日宣戦布告は避けられないようにも思える。ただ、もし避けられるとしたら早く降伏すること。つまり、ソ連に参戦理由を与えないことだったはずだ。意思決定者による判断の遅れはやはり致命的だ。

 英国とスペインが海上の覇権を争っていた時代。スペインのガレオン船を追うため、英国から軍艦が出航し、遭難する。無人島で水も食料もなく過ごすのであれば、陸にいたほうがいいと想像してしまう。それでも、こうした「冒険」に出かける人がいたからこそ世界は広がってきた。それは今、人類が月や火星を目指すことと同じなのかもしれない。本書は、残された詳細な記録から、遭難事件を現在に描き出す。人間の業が見えてくるとともに、当時の英西の覇権争いについても、客観的に考察しており、遭難事件の振り返りだけではなく、歴史そのものへの批評という深みを持つ。

 「ベラルーシ」と聞いて、どこに位置するのかピンとくる日本人は少ないだろう。本書は、「ヨーロッパ最後の独裁国家」と言われるこの国で、2020年8月のルカシェンコ大統領の不正選挙に対するデモについて描く。きっかけとなったスヴェトラーナ・チハノフスカヤは、大統領選に出馬するまで二児の母であり妻であった。彼女とその仲間がどのような経緯で独裁政権と闘ったか、そしてデモ後に起こった悲劇的な制裁とは何か。今、知るべき事柄が詰まっている本だ。

 パインは移民労働とともに存在していた。日本統治下の台湾で生産されて、日本本土にぜいたく品として移出されていたパインは、第二次世界大戦後、その産業自体が台湾から沖縄にやってきた。かつて石垣島の辺境地と言われた場所からパイン生産の中心となるまで、どのような変遷があったのか。本土からの保護や生産量の重視などによる質の低下からどのような復興を遂げていったのか。栽培条件などの知識から歩んできた当時の時代背景まで、パインの歴史を読み解く。