「人間には行方不明の時間が必要です」 ホラー作家・梨が明かす 「行方不明展」に込めた “現実”への思い

AI要約

日本におけるホラージャンルの隆盛と、新たな時代のホラー作家の台頭について。

ホラー作家梨氏が主催する「行方不明展」のコンセプトや展示内容について。

展示では異世界や現実世界との融合をテーマにし、4つの展示ルートで来場者を挑発する展示構成となっている。

「人間には行方不明の時間が必要です」 ホラー作家・梨が明かす 「行方不明展」に込めた “現実”への思い

 日本におけるホラージャンルの隆盛は70年代から始まり2000年代前半でピークを迎えたとも言われる。だが、2020年代頃からインターネットを中心に新たな時代のホラー作家が脚光を浴び、再びホラージャンルに活気が戻りつつある。

 中でも注目を集めているのが、インターネットや書籍、TV番組などとプラットフォームを横断しながら“読者が考察にのめり込んでしまう作品”を連発している作家の梨さんだ。

 そんな彼が、新たなホラーイベント展示会『行方不明展』を2024年7月19日(金)から三越前福島ビルで開催する。行方不明というモチーフを扱った展示の裏には、どんな想いが込められていたのか。梨さんにコンセプトなどを聞いた。

※この展示はフィクションです

――まずは気になる「行方不明展」のコンセプトや内容についてお聞かせください。

梨 詩人・茨木のり子さんの「行方不明の時間」という詩が発想元のひとつでした。「人間には 行方不明の時間が必要です なぜかはわからないけれど そんなふうに囁(ささや)くものがあるのです」。近年“異世界転生モノ”の小説や漫画が流行していますが、その理由は“死なずにこの世界から完全に自分を分断させてしまいたい”と思う人が多いからに思えます。私はこの“社会的な文脈からの開放”というネガティブではない視点から行方不明を捉え直すことに興味を惹かれたのです。

 今回はこの視点に“SF”、といってもサイエンス・フィクションではなく“スペキュレイティブ・フィクション(現実世界と異なった世界を推測、追求して描く物語)”の要素を融合させた展示ができないかと考えました。具体的に言うと“異世界が隣接しているもう1つの現実”を舞台にしており、そこに触れた人々が残した物品を見ていくことで、来場者がこの世界で何が起きたのかを把握していく作りになっています。

 もう少し説明しますと、行方不明を4つの展示ルートに分けて見せています。ひとつめは“身元不明”。これは人にまつわる行方不明で、誰がいなくなってしまったのかを紹介する内容です。ふたつめが“所在不明”。これは異界駅を描いたネット怪談「きさらぎ駅」や、アメリカ発の裏世界創作都市伝説である「The backrooms」のような、現実ではない場所にまつわる行方不明を紹介しています。

 そして物品にまつわる“出所不明”、記憶にまつわる“真偽不明”と話は進んでいき、最終的にはひとつの小説を読んだような感覚を覚えてもらうようにしました。