真実と作り手や観客の欲望が織り混ざった韓国映画の「ファクション」 44作品の背景を解説する著書を刊行した崔盛旭さん

AI要約

格差社会を風刺した映画「パラサイト 半地下の家族」は、社会批判と娯楽性を両立させた韓国映画の名作であり、韓国映画の世界的評価を高めた。

韓国の近現代の激動を背景にした映画製作は、歴史や文化を知ることで作品をより楽しめるとされており、隠された歴史や事件が映画を通じて再び記憶される機会となっている。

韓国映画産業の発展や同時代の課題を問う作品について解説した本書は、映画ごとの背景やテーマを掘り下げている。

真実と作り手や観客の欲望が織り混ざった韓国映画の「ファクション」 44作品の背景を解説する著書を刊行した崔盛旭さん

 格差社会を風刺した映画「パラサイト 半地下の家族」(2019年)は、カンヌ国際映画祭最高賞とアカデミー賞主要4部門に輝き、韓国映画の世界化を印象付けた。痛烈な社会批判と娯楽性を両立させた映画製作は、韓国のお家芸。「背景の歴史や文化を知ると映画がより楽しめます」。映画研究者の著者が、44作品について解説した。

 日本の植民地支配、朝鮮戦争と南北分断、軍事独裁、民主化運動と韓国の近現代はまさに激動の時代だ。1987年の民主化宣言以降、軍事政権の検閲下で語られなかった事件や事故が映画に描かれるようになった。「隠蔽(いんぺい)されてきた歴史が、多くは家族の物語として映画になることで過去が再び記憶され、開かれた議論の契機になってきました」

 90年代以降、韓国は国家戦略として映画産業の振興に注力し、映画産業はめざましい発展を遂げた。ジェンダー問題など同時代の課題を問う作品を含め、海外の観客にも普遍性をもって受け入れられている。

 本書では作品ごとの背景を読み解いた。80~90年代に韓国社会を震撼させた「華城連続殺人事件」をモチーフにした映画「殺人の追憶」(2003年)については、凶悪事件を軍事政権下の国家暴力に重ね「暴力で欲望を満たし、支配する構図は本質的に同じ」と分析する。「冬の小鳥」(09年)の章では、国際養子縁組が多い韓国の現実を紹介。戦争孤児や韓国社会に根強く残る儒教的な純血主義にも触れ「淡々と子どもの目線で見せ、言葉では説明できない悲しみを伝える映画」と評した。

 1969年、韓国京畿道抱川市出身。「風の谷のナウシカ」をきっかけに日本のアニメや映画に興味を持ち99年に来日。明治学院大大学院で評論家の四方田犬彦さんに師事した。現在は首都圏の大学を中心に非常勤講師を務める。本書はネット上の連載をまとめた。

 韓国では映画を語る時、「ファクト(事実)」と「フィクション(虚構)」を合わせた造語「ファクション」がしばしば使われるという。「映画には観客が求める『見たい歴史』も描かれ、真実と作り手や観客の欲望が織り混ざっている。海外の観客にもその虚実をふまえて楽しんでほしいから、解説を続けています」(書肆侃侃房・2420円)

(平原奈央子)