個人の健康が「社会の健康」を害してしまう⁉...「医学の進歩」に「山中伸弥」が警鐘を鳴らす納得の理由

AI要約

医学の進歩によって平均寿命が延びることは喜ばしい一方、高齢化による社会の課題も浮き彫りになる。

医療の格差や財政的負担、社会の健康維持などが重要な問題となっている。

将来の高齢化社会に向けて、個人の幸せと社会の健康を両立させるための対応が求められている。

個人の健康が「社会の健康」を害してしまう⁉...「医学の進歩」に「山中伸弥」が警鐘を鳴らす納得の理由

 人生100年時代。平均寿命が上がり続けている現代の日本では、そう遠くない未来に100歳まで生きることも当たり前になっているだろう。そんな時代にいつまで現役を続けられるのか? どんな老後の過ごし方が幸せなのか? 医療はどこまで発展しているのか? 

 ノーベル賞学者と永世名人。1962年生まれの同い年の二人が、60代からの生き方や「死」について縦横に語り合った『還暦から始まる』(山中伸弥・谷川浩司著)より抜粋して、「老化研究の最先端」をお届けする。

 『還暦から始まる』連載第11回

 『90代でマラソンやゴルフ⁉...「がん治療も大幅に進む」到来する「人生100年時代」に待ち受ける「衝撃すぎる」未来』より続く

 谷川 医学の進歩で平均寿命が延びることは、もちろんとても喜ばしいことですけれども、その弊害という言い方は正しくないにしても、高齢化が進むことによって、私たちの社会全体が成り立たなくなる可能性も一方であるんじゃないかと思います。老人が増えていく一方で、子どもが減っていく現状を見ても、若い世代がもう高齢世代を支え切れないという事態が迫りつつあります。

 山中 そこは非常に大きな問題ですね。特に日本は世界の中でも高齢化率のスピードはダントツです。少子化も急速に進んでいますからね。国民医療費は増える一方で、このまま行けば、どう考えても国家財政が破綻しますよ。

 山中 医学研究はいま、やたらに高い薬をどんどんつくりだしていて、これをイノベーションと呼んでいますけれども、大きな負の遺産を後の世代に残していることになります。そして医療の格差は広がる一方です。途上国にはそういう薬は届かず、先進国のアメリカではなんらかの保険に加入していない方は医療を断念せざるを得ない状況です。

 個人の健康寿命も大切ですけれど、社会の健康も大切です。むしろ社会をきちんと維持できるかどうかのほうが、じつは大きな問題かもしれません。僕たちの研究が健康寿命をどんどん延ばしていくと、平均寿命も延びますから、結果的にいまの社会問題を助長することになる可能性もあるわけです。だから余計に個人の幸せの前に社会の幸せが非常に心配になってしまいます。

 谷川 難しいところですね。

 山中 将来、110歳、120歳の人が世の中に溢れるようになったら、健全に社会を維持していけるのかどうか。そのうえで、何よりも当人が本当に幸せに生きていけるかどうかが大切になります。進む高齢化に社会がどのように対応していくか、高齢者のみなさんに社会でどのように活躍していただくようにするかは、もう一つの大きな課題です。真剣に考えていかなければなりませんね。

 『負けるとしても「若者と本気でぶつかれ」...ノーベル賞学者と永世名人が説く、若者から刺激を受ける「幸せ」と「意義」』へ続く