『定年後』の著者・楠木 新さんが教える、70歳まで働く時代の生き方【75歳からの生き方ノート】

AI要約

厚生労働省による健康寿命の情報や高齢者の生活に関する考察を紹介。

老後における資産寿命や労働寿命の重要性についての議論。

健康寿命、資産寿命、労働寿命、平均余命のバランスを考慮した生活の必要性。

『定年後』の著者・楠木 新さんが教える、70歳まで働く時代の生き方【75歳からの生き方ノート】

NHK『日曜討論』ほか数々のメディアに出演し、シニア世代の生き方について持論を展開するライフ&キャリア研究家の楠木新さん。人生100年時代を楽しみ尽くすためには、「定年後」だけでなく、「75歳からの生き方」も想定しておく必要があると説きます。楠木さんが10年、500人以上の高齢者に取材を重ねて見えてきた、豊かな晩年のあり方について紹介します。

文/楠木新

厚生労働省は2021年12月、健康上の問題がなく日常生活を支障なく送れる期間を示す「健康寿命」が、2019年は男性72.68歳、女性75.38歳だったと発表。前回の調査と比べて、男性で0.54歳、女性で0.59歳延びています。

ただ、前にも述べたように、皆さんの周囲を見渡していただいても、実際には日常生活を普通に過ごせるという意味では、多くの人が80歳近くまでは元気に過ごしているのではないでしょうか。

「令和3年簡易生命表の概況」によると、高齢者と呼ばれ始める65歳時点の平均余命は、男性19.85 年、女性24.73年になっています。年齢に引き直すと、男性は85歳、女性は90歳くらいまでは生きる計算になります。いずれにせよ、一定年数は他人の助けを必要とする期間があります。これが介護を受ける状況にもつながるのです。

私も70歳に近づいて周囲に健康面の問題を語る人が増えているので、これらの数値には自然と目が行くようになりました。

一方で、最近は「資産寿命」という言葉も使われるようになりました。老後の生活資金が枯渇するまでの年数といった意味で、寿命が延びても安心して暮らせるように資産寿命を延ばすことが強調されています。お金が大事であることは間違いありませんが、あまり強調されすぎると高齢者がますますお金を使わなくなる方向へ誘導されてしまう懸念もあります。

私の周りにも保有資産に十分な余裕があっても、国からの公的年金の2割以上は必ず貯金に回すという人や、銀行通帳の残高が減ると不安になるので必要以上に節約に走る人もいました。高齢になると、保有資産の額も個々のばらつきが大きいので、一般論や平均では実態を表していないこともあり、注意が必要です。

老後はこれに加えて「労働寿命」という考え方もあるそうです。何歳まで働けるかということです。一般には「生涯現役」というのは、できるだけ長く働いている状態のことです。

私が会社を退職した人たちに話を聞いた実感では、70代後半から全く新しい仕事や趣味などに取り組むのは容易ではありません。この年代になると旅行や美味しいものを食べ歩くことも徐々に日常的な行為ではなくなってきます。

つまり自由にお金を使って楽しむことができる期間には一定の限度があるのです。資産寿命の延命ばかりに気を取られていると、先に健康寿命が尽きて有効にお金を使う機会を逃してしまうことになりかねません。

これら「健康寿命」「資産寿命」「労働寿命」に加えて、前述した「平均余命」の4つの命を考慮しながら過ごす必要があります。