「日本人」、じつは「心筋梗塞」の発症率が世界でもトップクラスに低かった…!

AI要約

日本人には、日本人のための病気予防法がある! 同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。

日本で暮らす日本人と比較すると、日系移民や米国白人の中に冠動脈の硬化が進んで石灰化を起こす人が多いことが明らかになっています。

動脈硬化の進行をはやめたり、遅くしたりする遺伝子や遺伝子変異が見つかっており、生活習慣の影響も大きいことがわかっています。

「日本人」、じつは「心筋梗塞」の発症率が世界でもトップクラスに低かった…!

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日本人には、日本人のための病気予防法がある!  同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説! 

*本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

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 日本は昔から心臓病で亡くなる人が少なく、現在も心筋梗塞の発症率が世界一低い国の一つです。先に述べたように、日本人の悪玉LDLの数値は米国と同じくらいになっており、最近、ようやく少し下がり始めたところですが、こんな状況でも、男女ともに心臓病による死亡率は低いままです。よほど強い遺伝的素因が日本人の心臓を守ってくれているのかと思ってしまいますが、そうとは言えないようです。

 日本で暮らす日本人と、ハワイに移住した日系移民、そして米国白人それぞれの40代男性をくらべた調査から、心臓に流れ込む冠動脈の硬化が進んで石灰化を起こした人の割合は、日系移民が最も高いことがわかりました。冠動脈の石灰化が進んでいるほど、脳梗塞や心筋梗塞の危険が高まると考えられています。図5-4のグラフをご覧ください。日系人は、日本で暮らす日本人と同じ遺伝的素因を持ち、環境要因は米国白人とほぼ同じはずです。それが、日本で暮らす日本人の3倍も石灰化を起こしやすく、米国白人すら上回っていたのです。

 ブラジルに移住した日系移民も同様で、日本で暮らす日本人と比較すると、心筋梗塞などの心臓病に2倍以上なりやすいことが明らかになりました。糖尿病でも同じような傾向が見られたのをおぼえていますか? 61ページの図3-2に示したように、日系人の糖尿病発症率は、日本で暮らす日本人より高くなっていました。こうなると、日本で暮らす日本人が心臓病になりにくいのは、遺伝的素因より環境要因の影響が大きいと考えるしかなさそうです。

 ここで、悪玉LDLが動脈硬化を起こす仕組みを確認しておきましょう。最近の研究から、動脈硬化を起こすのは悪玉LDLそのものではなく、悪玉LDLが酸化してできる酸化LDLだとわかりました。酸化というのは、酸素と結びつくことで鉄がさびたり、リンゴの切り口の色が変わったりする現象のことです。ですから、ここでも、酸化LDLは悪玉LDLがさびた状態と考えてください。

 先に、中性脂肪は、コレステロールが動脈硬化を起こすように促しているとお話ししました。中性脂肪には悪玉LDLを小粒にして、酸化されやすくする働きがあるのです。小粒になると血管の壁にしみこみやすくなるうえに、血液中に滞在する時間が長くなるため、酸化される可能性が高まります。

 このとき中性脂肪と共犯関係にあるのが体の中の活性酸素です。これは通常の酸素より、何かを酸化する力が強い酸素のことです。人は毎日約500ℓの酸素を吸い、その酸素を使って食物からエネルギーを生み出しています。この酸素の一部が変化してできるのが活性酸素で、普段は、体内に侵入したウイルスや細菌を強い酸化力で攻撃したり、生命活動に欠かせない生体反応を引き起こしたりするなど大切な働きをしています。しかし余分な活性酸素は、小粒になった悪玉LDLをさびつかせ、酸化LDLに変えてしまいます。こうして酸化LDLが動脈の壁の中にたまり、免疫細胞などと作用しながら、本章の冒頭に書いた粥状硬化が進行していきます。

 生活習慣のなかで悪玉LDLを強力に酸化するのが喫煙です。タバコの煙には、酸化力を持つニコチンや一酸化炭素に加えて活性酸素そのものが含まれています。また中性脂肪を増やして善玉HDLを減らす作用もあるので、喫煙すると坂道を転げ落ちるように動脈硬化が進行します。

 そして、脂質異常症と同じく、高血糖と高血圧も動脈硬化を招きます。動脈は血液が猛スピードで流れているため、それだけで動脈の壁に無数の小さなキズがつきます。このとき血糖値が高いとブドウ糖が血管の内側をさらに傷つけますし、高血圧では血液の圧力が強まるのでキズが増えます。その結果、小粒LDLがしみこみやすくなって動脈硬化が進むのです。

 遺伝的素因については、動脈硬化の進行をはやめたり、遅くしたりする遺伝子や遺伝子変異がいくつも見つかっており、ここに、エピジェネティクスが関係することもわかっています。

 たとえば、こんな報告があります。このうち、ある遺伝子に変異が起きると、心筋梗塞の発症率が1・2~1・3倍上がります。ところが、調査に参加した人たちを野菜と果物の摂取量にもとづいて3つのグループに分けたうえで、改めて分析すると、興味深いことがわかりました。野菜と果物をあまり食べないグループの人にこの変異があると、同じグループで変異がない人とくらべて心筋梗塞の発症率が2倍高くなります。野菜と果物を食べる量が少ないと、この遺伝子の作用が強くなるのです。その逆に、野菜と果物を最も多く摂取しているグループは、この遺伝子に変異があってもなくても発症率が低いままでした。遺伝子の作用が弱まったということです。

 この結果は、心筋梗塞になりやすい遺伝的素因を持っていたとしても、生活習慣の力がそれを上回ることを示すものです。

 さらに連載記事<「胃がん」や「大腸がん」を追い抜き、いま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」>では、日本人とがんの関係について、詳しく解説しています。