無人島に持っていきたい、累計800万部・世界の美術家が認める“世界一売れている”美術鑑賞の本

AI要約

『美術の物語』は人類の美術の歴史を壮大な営みとして描いた本で、世界中で800万部以上売れるロングセラーとなっている。

ポケット版もあり、コンパクトにまとめられた本書は図像と解説を分け、スピンを使って行き来しやすくなっている。

本書には有名な美術作品の解説や興味深いエピソードが多数収録されており、美術への愛情が感じられる。

無人島に持っていきたい、累計800万部・世界の美術家が認める“世界一売れている”美術鑑賞の本

美術の歴史を書いた本や個別の美術作品や美術家の物語を書いた本はたくさんあるけれど、確かに、人類の壮大な営みとしての美術の物語を書いた本はないかもしれない。この本を手に取ったとき、まず、そう思った。そして読み進めていくうちに確かにそうわかったし、行間から美術への愛情が溢れてくるのを感じたものだ。

たまにあるアンケートだが、「無人島に1冊だけ持っていくとしたら、あなたはどんな本を選びますか?」というあれ。昔だったら「1冊なんて選べません」とか答えたかもだけど、今はこれでいいかなと思ってる。エルンスト・ゴンブリッチ卿(著者表記はE. H. ゴンブリッチ)の『美術の物語』である。

僕の持ってる版の表紙のビニールカバーに貼ってあるシールには「売上部数7,000,000突破『世界で一番売れてる美術の本』US News & World Report」とあるが、日本語最新版を出している河出書房によれば、現在では全世界で累計800万部になっているようだ。1950年に出版されて以来の超ロングセラー、超ベストセラーである。

35カ国語に訳されているが、日本語版はというと、最初に出たのは2007年にアメリカの出版社PHAIDON(ファイドン)からのもので、2019年に河出書房新社から新装版が出ている。マッシヴな画集のようなもので、ほぼB5判で688ページ、なかなかの存在感だ。

ここで紹介しておきたいのはもう一つの日本語版であるこちらのポケット版で、ちょうど辞書のような趣である。これはゴンブリッチ卿の没後に出た新版だそうだ。ページはおよそ1,050ページある。コンパクトにしたためになかなか強引な編集をしている。まず、図像ページと文章による解説ページを分け、解説ページには辞書で使うような薄い紙を使っている。図像と解説が分かれてしまったことについてはスピン(しおりのためのリボン)を2本つけることでその間を行き来できるようにしている。たとえばカラヴァッジョの《聖マタイと天使》のページの図像はこうだ。

この図版と離れている解説の方にはこうある。

「初老の貧しい労働者であり、一介の収税吏である男が、突然、本を書かねばならなくなったとしたら、どんなふうに座るのだろうか。考えたすえにカラヴァッジョの描いた聖マタイが、図15(左)だ」

禿頭、剥き出しの足、不安そうに書く様子を天使が助けている。しかし、この絵は聖人に対する尊敬の念を欠いていると、教会の信者から不評で描き直しをさせられ、図16(右)になった。現在、我々がローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会で見られるのはこちらだ。

カラヴァッジョが一つの解釈、知見を示したが、彼ほどの画家でも習慣や先入観を前に折れなければならなかった例として挙げている。

ちなみに元になった方の絵がモノクロなのには理由があって、結局、教会には掛けられなかったこの絵はある人物に買い取られ、ベルリンの美術館に保管されていたが第二次世界大戦の時の爆撃で消失し、モノクロ写真が残るだけだからだそうだ。もう一つ、余談をすると聖マタイに関する解釈は近代以降は変わっていて、使徒マタイと福音書記者マタイは別人であるとする説が有力なのだそうだが。