ファウンドリ会社切り離し案の報道で株価が上がるIntel

AI要約

Intelのファウンドリ会社分離が報じられ、投資家は慎重な態度を示す中、CEOのゲルシンガーは過去の成功体験から成長戦略を展開しようとしている。

高額な設備投資とコスト削減の並行作業でIntelの将来を模索する中、ファウンドリ会社の独立が迫られている状況を見据える。

半導体ビジネスのリスクと成功体験を経て、IntelとAMDの歴史は再び交錯し、市場の動向に注目が集まっている。

ファウンドリ会社切り離し案の報道で株価が上がるIntel

先般、Intel CEOのパット・ゲルシンガーの雑誌インタビュー記事について書いたが、その直後、海外通信会社による「ファウンドリ会社分離か?」の報道で、Intelの株価は9%の上昇を見せた。報道によると、Intelは投資銀行との交渉においてファウンドリ会社の切り離しを含む複数の計画案を提示していて、この交渉を経て今月中ごろに予定されている取締役会で今後の投資計画が決定されるという予測である。

■遠大な投資計画「IDM 2.0」に懐疑的になる投資家側の事情

かつてのIntel黄金期、CTOとしてプロセッサー製品の設計を主導したパット・ゲルシンガーがIntel再建のためにCEOとして舞い戻ったのは3年半前だ。先端プロセス技術開発での躓きを筆頭に、複合的問題を抱えていたIntelを再建すべく、ゲルシンガーが不採算部門の切り離しとともに高らかに宣言したのが、IntelをTSMCに伍するファウンドリ会社に作り替える「IDM 2.0」という遠大な成長戦略である。

折しも、3年前の世界的半導体供給不足を受けて、各国政府が自国での半導体サプライチェーン確保のために、工場誘致を目的として競うようにして提示した巨額の補助金を積極的に取り込み、既に米国と欧州での新工場・研究所新設に動き出しているIntelの計画実現には年間250~300億ドルという巨額の設備投資が向こう数年継続的に必要となる。そんな状況の中で先月発表された第2四半期の業績が示したものは、足元のプロセッサービジネスの不振に加え、従業員の15%にあたる1万5000人の削減計画であった。

コスト削減を進めるのと並行して、世界10か所に上る新たな生産設備の建設は既にかなりの部分が進んでいる。その状況で、現在Intelが運営するファウンドリ会社が製造しているのは事実上Intelブランド製品のみである。ファウンドリ企業としての第2四半期の収支は28億ドル以上の赤字で、今後のIntelブランドの市場での評価如何ではこの赤字が拡大する可能性は十分にある。投資側から見れば、ファウンドリ会社の切り離し案を歓迎する理由は充分にある。

■ゲルシンガーの頭に去来するかつての成功体験と「埋まらないファブ」の恐怖

ゲルシンガーが成長戦略で拠り所としているのは、「半導体ビジネス=キャパシティー・ビジネス」というかつてゲルシンガーがCTOとして活躍した往年のIntelでの成功体験ではないか、という印象を持つ。

当時、パソコン市場、それに続くサーバー市場を完全に掌握したIntelにとって、製造キャパシティーの増強は成長戦略そのものであった。しかし、先端生産技術を移植したキャパシティー増強の競争には大きなリスクが伴う。「本当の男だったらファブを持て」と豪語したAMDの創業者ジェリー・サンダースが、実際にはその資金繰りのために投資会社を奔走し、「ジャンクボンドの帝王」などと揶揄された時代、AMDで勤務していた私は市場評価が定まらない製品を大量生産するための工場建設が突貫工事で進められる状況の恐ろしさを身をもって体験した。Intel互換戦略から大きくステップアップして満を持して設計したK5プロセッサーの出来が悪そうだという観測の最中に、テキサス州オースチンに建設中だったFab 25を訪れた時に感じた半導体ビジネスの恐ろしさは、今でも記憶に残る。

その後、AMDはK5に代わるK6デザインをNexGen社の買収によって手に入れ、奇跡の復活を遂げた。K6デザインはAMDをK7/K8へと導き、それと並行するようにAMDはドレスデンの自社工場(後にGlobalFoundries社となる)を切り離しファブレス企業に生まれ変わった。半導体ビジネスとは本来高いリスクを伴うものである。