キーサイトの寺澤新社長が就任会見、AIや半導体への取り組みを加速

AI要約

計測・設計ソリューションのキーサイトテクノロジーの新代表取締役社長がAIおよび半導体分野に注力する方針を発表。

AI分野では、生産性向上や画像認識などのソリューション開発を進め、半導体分野では次世代パワー半導体向けテストソリューションを2024年後半に発表予定。

顧客とのパートナーシップを重視し、技術の進化に貢献する姿勢を持つ。

キーサイトの寺澤新社長が就任会見、AIや半導体への取り組みを加速

 計測・設計ソリューションのキーサイト・テクノロジーは8月2日、同1日付で代表取締役社長およびキーサイト・テクノロジー・インターナショナル 職務執行者社長に就任した寺澤紳司氏の記者会見を開催した。寺澤氏は、AIおよび半導体分野に向けたソリューションの展開を推進していくとの方針を表明した。

 寺澤氏は、横河ヒューレット・パッカード時代の1988年に入社し、欧州市場やネットワークアナライザーなどのビジネス開発などに従事。2018年に米国法人バイスプレジデントおよび半導体テストソリューション事業部長に就任した。同社トップとしては初の開発畑出身だという。

 また寺澤氏は、計測機器のモニターの波形を眺めるのが好きだと、個人でもオシロスコープを購入するほどの電子工作マニアと自己紹介した。同社にとって2024年は、旧Hewlett Packard(HP、現HP Inc.およびHewlett Packard Enterprise)の創業から85周年、HPの計測機器事業などを母体としたアジレント・テクノロジーの分社から10周年になり、寺澤氏は「節目での就任となり、日本では開発部門と営業部門の連携による取り組みを強化、推進していく。日本でも半導体が再び脚光を集めており、日本の半導体の復活も貢献したい」と初心を語った。

 2023年度のビジネストピックでは、収益が55億ドルとなり、2014年時点の29億ドルから大幅な成長を達成しているとする。現在は100カ国以上で3万社以上の顧客を持ち、研究開発拠点は世界22カ所、このうち日本には東京・八王子と神戸の2カ所があり、八王子の拠点(現八王子R&Dセンター)は、旧HPが1964年に初の海外拠点として開設した歴史を持つ。

 就任会見で寺澤氏は、AIと半導体への取り組みを強化する方針を掲げた。

 まずAIでは、同社自身でAIを活用する「AI.Productivity」、同社のAI技術を顧客のソリューションに組み込む「AI.Solutions」、市場にAIソリューションを提供する「AI.Markets」の3つを柱に取り組んでいるとした。AI.Productivityでは、特に技術者の生産性向上を目的に、反復的な作業やテストなどの自動化、コード生成などにAIを活用しているという。

 AI.Solutionsでは、既に幾つものソリューション実績があるという。例えば、医療分野においては、電子カルテメーカー向けにユーザーインターフェースの遷移テストを自動実行するため画像認識やOCR(光学文字読み取り)などを提供しており、エンドユーザーの操作などのモデルを用いた数千パターンのテストを自動的に実施できるという。同様に自動車分野向けには、数百もの車載レーダーセンターのデータを基に自動運転車のさまざまな走行環境を検証可能なエミュレーターとアルゴリズムの学習環境を提供している。

 また、米国で2月(日本では4月)に、AI/機械学習インフラ向けのベンチマークソリューション「Keysight AI Data Center Test Platform」を発表した。同ソリューションは、ディープラーニングのトレーニングなど複数のモデルシナリオを用いて、GPUサーバー間通信の状態などを測定し、AIインフラの最適化に活用できる。寺澤氏によれば、データセンター事業者や自前でAIインフラを構築するテクノロジー企業などでは、高稼働率と電力消費削減の両立が課題であり、実機による検証では負荷やコストが高くなるため、同ソリューションが貢献できるとする。

 同ソリューションは、クラウドハイパースケーラ―各社との連携で開発しているといい、当初はハイパースケーラ―のデータセンターやネットワーク機器ベンダーのAIワークロード向け製品開発などでの利用を想定しているという。

 もう一方の半導体分野は、AIに並ぶ柱と位置付ける。寺澤氏は、同社が旧HPの計測事業を源流として半導体分野で長年の実績を有するとし、「現在多くのさまざまな半導体アプリケーションが登場し、日本では国家戦略としても推進され当社の出番が増えるだろう」と述べる

 半導体製造分野向けの直近の取り組みでは、2023年にEDA(電子設計自動化)ソフトウェアのCliosoft買収により、半導体設計ソリューションのポートフォリオを強化。また、半導体のダイ間の相互接続をシミュレーションする「Chiplet PHY Designer」、多機能低消費電力ICの電気的特性を評価する計測機器「PZ2100」シリーズ、医療や自動車などのミッションクリティカル機器を評価するための静電容量方式によるワイヤーボンディング検査装置などを展開している。

 社長就任後も半導体テストソリューション事業部長を兼務する寺澤氏は、全ての成功の鍵が顧客とのパートナーシップにあると語り、「お客さまが最先端の製品を生み出してもそれが良いものかは、さらに先を行く(計測の)技術がなければ証明することができない。その技術者としてとてもやりがいを感じている」と話した。

 半導体分野では、世界的に注目を集める先端ロジック半導体だけでなく、省エネルギー性に優れるシリコンカーバイト(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などを採用した次世代パワー半導体にも対応を進めるとし、2024年後半に次世代パワー半導体向けテストソリューションを発表する予定だという。