自分の作品に似たAIイラストがあったときの対応方法 文化庁が解説

AI要約

文化庁がAIと著作権に関する重要なチェックリスト&ガイダンスを公開した。

その中で、自身の作品に類似したAI生成物への対応方法が詳細に解説されている。

重要な要素である類似性と依拠性を考慮し、著作権侵害の判断や権利行使の方法が説明されている。

自身の作品に類似したAI生成物を見つけた場合、差止請求や損害賠償請求などの権利行使が可能である。

また、AIの開発者や提供者も著作権侵害の責任を負う場合があり、適切な対応が求められる。

権利行使を検討する際は、専門家の意見を聞くことが重要である。

一方、著作権侵害とならない場合も存在し、権利制限規定が適用される条件が明確に示されている。

これらの規定はAI生成物の目的や態様に応じて個別に判断される必要がある。

AI技術の発展に伴って、適用される規定も変化する可能性があることに留意が必要である。

自分の作品に似たAIイラストがあったときの対応方法 文化庁が解説

文化庁は7月31日、「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」と題した資料を公開。その中から「自身の作品に類似したAI生成物への対応」に関する内容を見ていく。

 文化庁は7月31日、「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」と題した資料を公開した。

 

 同資料は生成AIに関するポイントのうち、著作権に関するものに限定し、AI開発者/AI提供者/AI利用者/業務外利用者(一般利用者)の立場ごとのチェックリストおよび、著作権の侵害があった際の対応方法について詳述されている。

 

 その中に、「自身の作品に類似したAI生成物への対応」という項目がある(p.31)。つまり、自分の作品に似たAIイラスト等を見つけたときにどう対応するかというものだ。

 

著作権侵害は「類似性」と「依拠性」の2つの要素で判断

 まず、人間の創作物と同様に、AI生成物でも著作権侵害にあたるかどうかは、「類似性」と「依拠性」の2つの要素から判断される。

 

 類似性とは、AI生成物が既存の作品の「表現上の本質的な特徴を直接感得することができる」状態を指す。

 

 重要なのはアイデアの類似ではなく、具体的な「創作的表現」が共通しているかどうかという点だ。

 

 例えば、風景画であれば、構図や色彩、対象物の配置などが共通している場合に類似性が認められる可能性がある。

 

 依拠性とは、AI生成物の作成者が既存の作品に接しており、それを参考にしてAI生成物を作成した状態を指す。

 

 これを証明するには、AI生成物の作成者が既存の作品を認識していたことを示す以下のような証拠が必要になる。

 

●AI生成物が既存の作品と酷似している

 

●AI利用者が、生成AIへ指示(プロンプト)を出す際に、既存の作品のタイトルなどの特定の固有名詞を入力していた

 

●AI利用者が「Image to Image(画像画像)」のように、既存の作品そのものを生成AIに入力していた

 

 ただし、既存の作品がAIの学習データに含まれていたかどうかの立証は必須ではない。

 

 AI生成物の作成者が著作権を侵害する意図を持っていたかどうかは、プロンプトの内容や、生成されたAI生成物と既存の作品との類似性の程度、AI生成物の作成者が既存の作品に触れる機会があったかどうかなどを総合的に考慮して判断される。

 

自分の作品に類似したAI生成物を見つけたら

 そこで、もしも自身の作品に類似したAI生成物を見つけ、「類似性」と「依拠性」の両方が認められた場合は、著作権侵害として以下のような権利を行使することが可能だ。

 

●侵害行為の差止請求

 著作権法第112条に基づき、AI生成物の作成者や利用者に対して、以下のような行為を止めるよう請求できる。

 

・著作権を侵害する新たな生成物の生成(複製)の差し止め

 

・既に生成された、著作権を侵害するAI生成物の利用行為(公衆送信等)の差し止め

 

・(一定の場合)将来のAI開発に用いられるデータセットからの、侵害された既存の著作物の除去

 

・(一定の場合)侵害物の生成に用いられたAIによる新たな侵害の予防に必要な措置

 

●損害賠償請求

 著作権侵害によって生じた損害について、民法第709条に基づき、AI生成物の作成者や利用者に対して賠償を求めることができる。

 

●刑事告訴

 著作権侵害は刑事罰の対象となるため、捜査機関に対して告訴し、AI生成物の作成者や利用者の処罰を求めることもできる。

 

●不当利得返還請求

 著作権侵害によってAI生成物の作成者や利用者が不当な利益を得ている場合、民法第703条に基づき、その利益の返還を求めることができる。

 

 上記に加え、状況によっては、AIの開発者や提供者も著作権侵害の責任を負う場合がある。

 

 例えば、開発者や提供者が、生成AIが著作権侵害を引き起こす可能性を認識していながら、それを防止するための措置を講じていなかった場合などが該当する。

 

 開発者や提供者が責任を負うと認められる場合、彼らに対しても、上記と同様の措置を請求することが考えられる。

 

権利行使を検討する上での留意点

 ただし、上記はあくまで考えられる措置だ。実際にどの様な措置が取れるのか、また刑事責任が問えるのかは、侵害の故意や過失の有無、権利制限規定の適用など、個々のケースに応じて判断される。権利を行使するかどうかは、権利者自身の判断で決定することとなる。

 

 侵害の有無の判断や、具体的な権利行使の手続きは専門知識が必要となるため、弁護士等の専門家に相談することが推奨されている。

 

 さらに、文化庁では、AIと著作権に関する無料の弁護士相談を提供している。

 

著作権侵害とならない場合(権利制限規定)

 一方で、上記のような類似性及び依拠性が認められる場合でも、以下のような権利制限規定が適用される場合は、著作権侵害とはならない。

 

●私的使用目的の複製(著作権法第30条第1項)

●検討過程における利用(著作権法第30条の3)

●学校その他の教育機関における複製等(著作権法第35条)

 権利制限規定の適用は、AI生成物の生成・利用行為ごとに、その目的や態様によって個別に判断される。

 

 たとえば、私的使用目的で生成したAI生成物をSNSにアップロードする行為は、私的使用目的の範囲を超えるため、権利制限規定の対象外となる。

 

 なお、これらはAI技術の発展や関連する判例の蓄積によって対応が変わってくる可能性もあることに留意が必要だ。

 

文● 田口和裕 編集●ASCII