「今は成長か停滞かの重要な分岐点」と話す日本IBM社長の思いとは

AI要約

日本IBMの山口明夫社長が、日本企業が直面する課題やチャンスについて力強く語る。

山口氏は、新たなテクノロジーを活用し、イノベーションを生み出す重要性を強調。

IBMの取り組みとして、ハイブリッド・バイ・デザインや自動化など3つの重点領域を挙げた。

 本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。

 今回は、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏と、AWSジャパン 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長の瀧澤与一氏の「明言」を紹介する。

「成長か停滞か、私たちは今、重要な分岐点に立っている」

(日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏)

 日本IBMは先頃、年次イベント「Think Japan」を都内ホテルで開催した。山口氏の冒頭の発言はそのキーノートのスピーチで、同イベントのメッセージとして自らの率直な思いを述べたものである。

 今回のThink Japanのテーマは、「成長か停滞か、重要な分岐点。『ビジネスのためのAI』で一歩先へ」。山口氏の冒頭の発言は、このテーマに反映されている。スピーチで最初に語りかけ、その思いについて次のように話した。

 「日本企業はこれまで30年間、デフレの下で製造拠点を低コストの地域にシフトしたり、人件費を抑えながら懸命にコスト削減を図り、なんとか利益を確保してきた。そうした中、世界情勢が大きく変わってきて不確実性が増し、さまざまなコストが一気に上がり始め、今はインフレ状態だ。とはいえ、これまで長い間不振だった経済がコロナ明けとともに好転し始め、これからさらに上昇機運に乗るかという時に、あらためて周りを見ると、日本では人手不足が深刻になり、国内で調達できるエネルギーをはじめとした資源もかなり乏しくなってきている。少子高齢化、人口減少、資源不足といった問題に、私たちはどう向き合っていくのか」

 こう問題提起した同氏は、それに対する姿勢について次のように語った。

 「大事なことは、そうした状況を悲観的に捉えるのではなく、むしろ大きなイノベーションを生み出すチャンスだと捉えて前に進むことだ。そこで活用すべきなのが、生成AIや量子コンピューターといった新たなテクノロジーだ。これらを使って、新たなビジネスを創出し、仕事の仕方をガラリと変えていく。その姿勢と実行が、私たちのこれからの成長を左右する。今、私たちはその重要な分岐点に立っているというのが、私の率直な思いだ」

 さらに、こう付け加えた。

 「成長の要件としてもう1つ述べておくと、生成AIなどのテクノロジーがもたらす効果として生産性向上がよく言われるが、それだけでは本当の成長につながらない。テクノロジーによって、いかに新しいものを生み出していくか。製品やサービスだけでなく、ビジネスモデルや働き方なども対象となる。それこそがイノベーションであり、次の大きな成長につながる。こうしたチャレンジは、1社単独でなく、顧客企業やビジネスパートナー企業と一緒になって進めていくことも不可欠だ。そうしたエコシステム作りの重要性も強調しておきたい」

 その上で、山口氏はIBMがフォーカスしている取り組みとして図1に示した3つを挙げた。

 1つ目は「ハイブリッド・バイ・デザイン」。従来は「ハイブリッドクラウド」をキーワードに挙げていたが、その前提として「システムの在り方を基からデザインすることが大事」だとして、今後はこの言葉を前面に出していく構えだ。

 2つ目は「オープンなAI」。とりわけ生成AIについては、オープンソースコミュニティーとも連携しながら、オープンであることをアピールしていく。

 3つ目は「自動化」。テクノロジーによる業務の自動化が注目されているが、山口氏は「今の自動化は部分的にとどまっている。それらをインテグレートしオーケストレートしてこそ、フルの自動化が実現できる」とし、同社ではフルの自動化に取り組んでいく姿勢だ。

 キーノートではその後、この3つの取り組みについてさらに掘り下げた説明もあったが、筆者が最も印象深かったのは「成長か停滞か」について自分の言葉で熱く語った山口氏のスピーチだった。