ぐったりやくも返上、20年かけた新「振り子制御」…車窓の大山眺める余裕も

AI要約

JR西日本の特急「やくも」が20年の歳月をかけて開発された新たな「振り子制御技術」を導入し、乗り物酔いを大幅に改善した。

新技術によりカーブをスムーズに走行し、不快な揺れを軽減したやくもは、乗客に快適な旅を提供している。

振り子制御技術の開発により、カーブを安定して走行する新型「やくも」が登場し、乗り心地が向上した。

 連続するカーブで乗り物酔いする人が多かったことで知られたJR西日本の特急「やくも」。同社はこの春、20年の歳月をかけて開発されたという新たな「振り子制御技術」を導入。最適なタイミングと角度で車体を傾けられるようになり、不快な揺れを大幅に改善したという。乗り心地は良くなったのか。実際に乗車してみた。(松田祐哉)

 やくもは岡山―出雲市駅(島根県)間(約220キロ)を約3時間で結び、中国山地を縫うように進む。記者は昨年10月、取材でやくもの旧型(381系)に乗った経験がある。カーブを通過する際、急に傾いたり、立つと転倒しそうになるほどの揺れに襲われたりで、座席でパソコンを打っているとみるみる気持ちが悪くなった。旧型は「ぐったりやくも」との異名があった。

 岡山駅から新型(273系)に乗ったのは4月中旬。期待と不安を胸に、真新しい座席に腰を下ろした。

 特に揺れが激しいのは、やくもの運行区間のうち倉敷駅(岡山県)から伯耆大山(ほうきだいせん)駅(鳥取県)までの伯備線区間だ。半径300メートルという特急列車が走る線区としてはきついカーブが連続する。この日も列車は右へ左へとうねりながら走ったが、緩やかなカーブではゆっくりと、急なカーブでもスムーズに、車体が傾いた。気持ち悪さは感じず、雪が残る大山の眺めを楽しむ余裕も。米子駅(鳥取県)で降りるまで快適な旅だった。

 新たな振り子制御技術とは一体どんなものなのか。

 カーブでは重力に加え、外向きに引っ張られる力(遠心力)が作用する。列車が高速でカーブを走れば遠心力は大きくなり、乗り心地が悪化し、乗客が転倒する恐れもある。

 旧型はこれに対処する振り子技術を搭載し、1982年から運行を開始した。台車と車体の間に「振り子梁(ばり)」と呼ばれる装置が付いており、車体がカーブに合わせて傾く。この動きで床面に垂直に働く力が大きくなる一方、乗客が感じる遠心力は小さくなり、やくもは速度を保ったまま曲がることができる。

 しかし、装置の振り子機能は自然の動きに任せて動く仕組みで、装置内の摩擦によって「振り遅れ」が発生。カーブの出入り口付近で不快な横揺れが生じる要因になっていた。

 今回、この振り遅れを解消する次世代の技術を開発したのが、鉄道総合技術研究所(東京)だ。真木康隆・車両運動研究室長は「最適なタイミングと角度で車体を傾けることができるようになった」と説明する。