前代未聞の不信任決議が可決された斎藤兵庫県知事、反面教師とすべき最悪のマネジメントを笑えない組織が多い理由

AI要約

兵庫県の斎藤元彦知事が博物館職員を叱責した事件をめぐって、事実認識のズレが問題となった。知事や職員の対応には改善の余地があった可能性が示唆されている。

管理職になりたての人が陥りやすい“経験的正解”の決めつけがパワハラを引き起こすケースも多い。新任管理職は部下とのコミュニケーションに注意が必要。

強圧的な指摘が部下に恐怖心を植えつけ、負のスパイラルに陥ることでパワハラが発生しやすくなる。このようなスパイラルから抜け出すためには、適切なコミュニケーションが必要である。

 (川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)

■ 博物館エントランスでの職員叱責事件に見る「強い違和感」

 さまざまなパワハラや“おねだり”疑惑が内部告発によって明るみに出て、県議会の全議員から辞任を求める声が上がっている兵庫県の斎藤元彦知事。9月19日、議会で不信任決議案が提出され、前代未聞の全会一致で可決されたことで、いよいよ辞職か議会解散かの決断を迫られています。

 「車止めをなぜのけとかなかったのか。のけるのを失念してたのじゃないかということを申し上げたというふうに記憶しています」

 「外だということもありまして、大きい声でその旨を伝えたというふうに記憶しています」

 「それなりに強く指摘をさせていただいたと思います」

 これは、県議会の百条委員会で斎藤知事が行った答弁です。

 博物館のエントランスが自動車進入禁止なので公用車を降り、20m程度歩かされたことで激怒したとされる一件について尋ねられた知事は、以上のように回答しています。

 ですが、この答弁を聞いただけでも強い違和感を覚えます。兵庫県庁や知事を取り巻く現状を考えると、マネジメントのあり方に大きな問題があったのではないでしょうか。

 当時、知事は歩かされたエリアが自動車進入禁止だったことを知らなかったと証言しています。つまりこの叱責事件は、事実認識のズレがもたらしたということです。

 知らなかったからと叱責された職員としては、たまったものではありません。しかしながら、知事が禁止エリアだと認識していないことも想定して先読みしていれば、対応は違った可能性があります。

■ 管理職になりたての人が陥りやすい“経験的正解”の決めつけ

 知事自身は答弁で、20m歩かされたから怒ったのではなく、円滑な車の侵入をきちんと確保していなかったことを注意したと述べました。「知事が通る時は、禁止エリアなど取り払え!」と特別扱いを迫ったわけでもないようです。

 そうであれば、職員は入り口から20m手前の車止めのところで待機し、「これ以降は進入禁止エリアのため、ご足労ですがここからは徒歩にて入り口まで案内させていただきます」と説明すれば事なきを得た可能性があります。知事も答弁の中で「そのような対応も一つの選択肢だったと思う」と述べています。

 そんな先回りした対応や機転を利かせた対応を求めている側からすると、叱責を受けた職員の対応は怠慢に見えたのではないでしょうか。有能な官僚だったとされる斎藤知事は、自分が職員の立場であれば先回りした対応ができた自信があるのかもしれません。また、職員にそのような一歩先行く対応を求めたこと自体は、決して間違いではないと思います。

 ところが、告発文書にもなっていることから、叱責された職員側はパワハラだと感じたようです。このような場面は、一般企業の職場の中でも良く見られます。特に多いのは、上司が新任管理職の時です。

 管理職になりたての人は、直前まで優秀なプレイヤーだったケースが多く、その感覚が“経験的正解”として体に染みついています。そのため、初めて部下を持つと自分と比較してしまい、欠点ばかりが目につきがちです。そして、「なんでこんなこともできないんだ!」「それじゃダメだ。こうしろ!」などと、部下のふがいなさをイラ立ちながら指摘します。

 管理職に抜擢されるほど優秀なプレイヤーだった視点からの指摘ですから、大抵の場合間違いではないでしょう。ただ、その指摘が正しいか否かにかかわらず、強圧的な印象を受けると、部下には指摘された内容よりも恐怖心ばかりが植えつけられてしまいます。

 そのため委縮してしまい、また同じ失敗を繰り返しては指摘されるということが何度も続くと、どんどん自信を失ってさらに失敗を繰り返すうちに怒気を増したりしながら指摘が“強く”なっていくという負のスパイラルに陥ります。

 これは、パワハラ発生の典型パターンの一つです。中には、ベテラン管理職になってもこの手のスパイラルから抜け出せないままの人もいます。