冠水したアンダーパスに車進入 開かぬドア、警察官に躊躇はなかった

AI要約

島根県内で大雨洪水が発生し、警察官3人が救助活動に参加する。

アンダーパスで車が水没し、警察官が救命胴衣を手渡し、運転手を救出する。

救助活動が成功し、警察官3人が人命救助功労で表彰される。

冠水したアンダーパスに車進入 開かぬドア、警察官に躊躇はなかった

 いつか出くわしたら自分が救助する――。1人の警察官が心に秘めていた、その場面が訪れた。

 島根県内に大きな被害を出した7月9日の豪雨。県警出雲署の管内にも大雨洪水警報が出され、同署地域課の横山陽一巡査長(30)は、先輩の妹尾育佳巡査部長(48)、警察学校初任科生で研修で斐川交番に来て2日目の武部僚巡査(22)と3人で、パトカーで警ら活動に出た。

 把握していた危険箇所を巡る中で、JR山陰線の下をくぐる出雲市斐川町の「直江新川アンダーパス」が冠水しているのを見つけた。「このままでは危ない。(通行を)止めてしまおう」。妹尾さんのひと声で、3人は両側にわかれてパイロンを置き、交通規制をかけた。

 しかし、まもなくして、軽乗用車が対向車線からアンダーパスに入った。目の前が見えにくいほどの土砂降りの雨だった。

 車は窓ガラス近くまで水に浸かって動けなくなっていた。運転者1人が車内にいるように見えた。横山さんらは離れた所から大声で呼びかけたが返事はない。水圧でドアは開かないのか、自力では出られない様子だった。

 「早くどうにかしなくては」。妹尾さんが、助手席側の小高い歩道から車内を見ると、運転席の窓が開いていた。「パトカーにある救命胴衣を渡そう」

 妹尾さんが取りに行って戻り、歩道からボンネットに乗ると、浮いた車がぷかぷかした。妹尾さんは運転席側の窓からなんとか救命胴衣を手渡したが、水かさはどんどん増していた。

 「(水に)入ろう」という妹尾さんに、横山巡査長は「今なら助けられる」。

 県内の高校に通っていた時、東日本大震災で被災した映像を見た。命を救う仕事が輝いて見え、警察官になろうと決めた。

 体に付けた装備品を外し、水の中へ。水深や流れ、水かさの増す速さなど、妹尾さんと確認し合いながら前進した。車のドアにたどり着いた時には、水深は肩の近くまであった。両腕を伸ばし、窓から「横に引っ張り出す感じ」で運転者を窓から外へ出した。救命胴衣の浮力で救助者が軽く感じられた。

 当時、妻が臨月間近だった横山さんは「かっこいいお父さんになりたいと、できることは精いっぱいやろうと考えました。その後、無事に男の子が生まれてうれしかった」

 県警は4日、横山さんら警察官3人を人命救助功労で表彰した。丸山直紀本部長は「一つひとつの判断が適切で、組織の模範」とたたえた。

 救助した日から2カ月近く、やや遅めの表彰式になったのは、横山さんの出産休暇を優先したためだった。妹尾さんは「大雨の被害は今後も増加が見込まれる。今回のように危険箇所を確実に把握したい」と笑顔だった。(中川史)