「他国から攻撃されても自衛隊、米軍が助けてくれる」は甘い…安全保障のプロによる日本有事シミュレーション

AI要約

日本の軍事的な有事を想定した訓練が不足していることが指摘されている。台湾や韓国では民間参加型の防空訓練が実施されているが、日本の国民保護訓練は自然災害を主に想定しており、軍事的な有事の訓練が不十分である。

日本全体で見ても、国民の意識が薄い状況が続いており、特に県知事の意向に左右されることもある。沖縄を含む日本各地でも有事の想定が難しいとされており、訓練回数が少ない。

将来的な武力攻撃に備えるためにも、日本全体で国民の意識改革や軍事的な有事を想定した訓練の重要性が高まっている。

日本が外国から武力攻撃されたとき、何が起きるのか。東京国際大学の武田康裕教授は「自衛隊は民間防衛より軍事・防衛に注力する。米軍が手助けしてくれるかは不明だ。究極的には自分自身でどうにかするしかない」という――。(後編/全2回)(インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)

■「有事」を想定した訓練をしない日本

 (前編から続く)

 ――台湾では2024年7月末に、国民も参加する大規模な防空避難訓練が行われました。韓国でも2023年、国民参加型の防空訓練が行われています。

 【武田】台湾は危機意識が高いため、毎年全国レベルの訓練が行われています。しかも一般に「民間防衛」と呼ばれるもので、国民には参加義務があります。「シェルターに退避を」「自家用車を道路に置かないように」と指示が出れば従わなければならない、かなり徹底した訓練を行っています。

 一方、韓国の場合は政権によっては北朝鮮に融和的な対応をするため、戦争に対する意識が薄れる時期があります。昨年の訓練は実に6年ぶりに行われたもので、50万人規模で行われたといわれています。

 ――日本では防災訓練は盛んにおこなわれていますが、軍事的な有事を想定した訓練となると経験がありません。

 日本では「国民保護訓練」という名称で実施されており、国民保護法に基づいて地方自治体が主催する形で行っています。

 国民保護法は、武力攻撃事態などを想定して、いざというときに国や都道府県及び市区町村、関係機関が協力して国民の生命・財産や経済活動を守るためにできた法律で、安全保障上の「有事」を想定したものです。

■1位は福井と徳島、ワーストは和歌山

 2004年に成立し、以降、2005年から2023年までの間に、最も多い都道府県で福井県、徳島県が16回。最も少ない和歌山県は3回の国民保護訓練を実施しています。

 全国的に訓練回数が少ないのですが、中身も問題です。国民保護訓練のシナリオは、法律では武力攻撃事態などを想定しているにもかかわらず、実際には主に自然災害がベースになっています。

 近年、ようやくテロリストや武装した不審者が上陸してきたとか「ミサイルが着弾」という、武力攻撃に準じた事態を想定した訓練シナリオを組み始めていますが、武力攻撃事態となるとまだまだ片手で済むくらいの回数しかやっていません。

 特に有事の想定は県知事などの意向に左右されますので、トップがリベラルなスタンスであるなどの場合には、軍事的な有事を想定することが難しい状況があります。

 ――安全保障環境が厳しく、最も訓練が必要と思われる沖縄でも、わずか5回ですか。

 それでも離島などで、「訓練すべきだ」、「住民避難を想定しておかなければ」という声が出てきてはいるようです。しかし日本全体で見ても、国民参加型の防空避難訓練、いわゆる「民間防衛」の訓練については準備も意識も不十分である、というのが実情です。