パンフレットは無数にあるのに、全体の地図がない...山のようなパンフレットから暴かれる「混沌とした」ニセコの実態

AI要約

ニセコが世界的な高級リゾート地となる過程での外国資本の戦略や日本の観光の課題について解説。

観光情報の提供や統括が不十分なまま育ったニセコの状況を明らかに。

ニセコの混沌とした観光情報の分散が、まち全体の魅力を伝える障害となっている様子が浮かび上がる。

パンフレットは無数にあるのに、全体の地図がない...山のようなパンフレットから暴かれる「混沌とした」ニセコの実態

今や世界中から富裕層がこぞって訪れる冬の高級リゾート地となった北海道ニセコ。どうやってニセコはインバウンドをものにしたのか。海外の富裕層を取り込む外国資本の戦略、日本の観光に足りていないものとは何なのか。ニセコの成功の背景を、リゾート地・富裕層ビジネス・不動産投資の知見をもつ筆者が、これらの謎をひも解く。

*『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(高橋克英著)より抜粋してお届けする。

『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』連載第49回

『「中国のスキー場と同レベルになってしまう」...雪不足でニセコの魅力がなくなる!?地球温暖化による暖冬の恐怖』より続く

JR俱知安駅の待合室の一角にある俱知安観光協会の窓口。コンパクトながら、スタイリッシュなつくりで、NISEKO KUTCHANの英字ロゴが目立つ。その傍らには日本語、英語の観光パンフレットが所狭しと並べられている。時期や時間帯もあるのだろうが、待合室には電車待ちする地元の高校生や高齢者がいるばかりで、パンフレット類を手に取る者は誰一人いない。

ただしパンフレット類にある英文フリーペーパーは、フリーペーパーのクオリティでなく、なにかのファッション雑誌かと思うくらいのレベルだ。いわゆる海外高級ラグジュアリーホテルの室内のボードテーブルに置いてあるフリーペーパーや雑誌のようだ。アマンなど高級コンドミニアムの広告もグラフィカルに掲載されており、こうした大手開発会社からの大口の広告収入があるため、紙質もよくクオリティの高いフリーペーパーが生まれているわけだ。

一方で、観光案内所には、観光協会や自治体が作成したパンフレットなどあるが、一部を除けば、紙質や写真のクオリティなど、いわゆる観光協会のパンフレットのレベルで、英文フリーペーパーやフリー雑誌とはかなり差を感じてしまう。

むろん大事なのは中身だが、肝心な中身がこれまた問題なのだ。パンフレットは山のようにあるが、どれもこれも特定のエリアだったり、食事にフォーカスしていたりで、ニセコをすべて網羅するものが見当たらない。たとえば、ニセコ町のパンフレットには、ニセコビレッジとニセコアンヌプリの記載はあるが、ヒラフから先の地図は切れていたりする。グラン・ヒラフや花園は俱知安町だからだ。つまりニセコの5つのスキーリゾートは、俱知安町とニセコ町に分かれているのだ。

あらゆるパンフレットが、自治体や観光協会や個別企業などから発行され、圧倒的なボリュームがありながら、ニセコ全体をとらえた地図さえも見当たらない。よくいえばニセコの多様性と競争力を象徴しており、悪くいえば混沌として司令塔なきニセコの悪しき事例の一つなのかもしれない。本書作成にあたっても、ニセコ全体の観光客数や宿泊者数などの公的な統計資料や、町長や町議会の発言資料を集めるのは一苦労だった。

『「これが縦割り行政の限界例」...オールメンバーが揃ったのに、利害関係で《足並みバラバラ》ニセコ行政の弱点』へ続く

【ニセコの最新の状況についてはこちらの記事もご参考ください】