社会で子どもを育てる「社会的養護」 貧困の連鎖を断ち切る

AI要約

改正児童福祉法による社会的養護の重要性と現状について解説。

家族構成の変化や貧困家庭の増加などが子育てに及ぼす影響を考察。

人材確保や関連施策の必要性について提示。

社会で子どもを育てる「社会的養護」 貧困の連鎖を断ち切る

 元連合会長の古賀伸明氏は毎日新聞政治プレミアに寄稿した。「社会的養護を充実させ、負の連鎖を断ち切ることは、すべての子どもが人間らしく生きるために必要だ」と語った。

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 今年4月に施行された改正児童福祉法は、児童虐待の防止や子育て世帯の支援強化などを主たる目的としている。

 特に「社会的養護」は、私たち社会全体のものとして受けとめる必要がある。

 社会的養護とは、「保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」と政府は定め、「こどもの最善の利益のため」と「社会全体でこどもを育む」を理念としている。

 日本は先進国であるにもかかわらず、社会的養護の必要性はますます高まっている。その背景にあるのは、近年になって目立つ、子育てをめぐるさまざまな課題だ。

 ◇変わる家族

 まず、子育てに大きな影響を与える家族構成の変化だ。

 戦後から高度経済成長期ごろの家庭は3世代世帯が多く、祖父母が子育ての役割を担うことも普通だった。しかし、第1次産業から第2次、第3次産業への発展で人口が都市部に移り、核家族化、共働き家庭、さらにはひとり親家庭が増えていく。その結果、家庭において子育てを担える力が弱くなっていった。

 次に、景気の悪化と非正規雇用の増大に伴う、貧困家庭の増加という要因だ。

 特にひとり親は、非正規で賃金の低い仕事にしか就けないことが多く、必要な衣食住や医療、教育などを子どもに十分に与えられないことも少なくない。

 ◇困難を抱える子どもたち

 このような困難を抱え、公的な養護を必要とする「社会的養護対象児童」の数は、2023年4月現在約4万2000人にのぼる。その大多数が施設養護であり、最も多いのが児童養護施設だ。

 虐待による子どもの死亡事故の発生は後を絶たず、子育てに困難を抱える世帯が増加し、虐待を受けた児童や心身に障害を抱える児童の増加は深刻化している。児童虐待の相談件数は、1998年度の約7000件から22年は約22万件と、二十数年が経過しているとはいえ、約30倍の増加だ。

 また、養護が必要な児童の総数に対し、何らかの障害のある児童の割合は約40%。以前からの統計では、身体的障害のある児童の割合はほぼ変化はないものの、知的障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、学習障害や広汎(こうはん)性発達障害などの児童の割合は、年々増加している。

 虐待やDV(ドメスティックバイオレンス)を見たり受けたりした子どもは、発達障害や情緒面での問題行動を起こしやすいともされており、こうした児童は今後も増えていく可能性が十分にある。

 ◇格差の拡大と貧困の連鎖

 保護者の問題や貧困、虐待など、困難な状況におかれた児童は、低学歴・低学力を強いられ、将来への可能性と選択肢が制限される。たとえば大学・専門学校への進学率も、22年4月の全国平均が約70%なのに対し、約33%と一般家庭との差は歴然だ。

 社会に出た後も、就職後の離職率の高さやホームレスに占める施設出身者の割合の高さなど、社会的養護が終わった後の暮らしも、総じて厳しい状態にあり、格差の拡大と貧困の連鎖は、次の世代へ続くことになる。

 児童虐待相談件数のうち一時保護に至る事例は極めて少ない。その背景には、児童相談所が親からの反発や関係悪化を恐れて、一時保護をためらうケースも少なくないという。

 このような状況から、一時保護の適正性や手続きの透明性の確保に向けて、今回の改正では一時保護開始時の判断に関して司法審査が導入された。また、一時保護所のケアの質について外部からの第三者評価を受け、必要な改善につなげていくこととなった。

 ◇人材確保が課題

 その他にも「一時保護における児童の意見聴取の仕組みの整備」「子ども家庭福祉における実務者の専門性の向上」「児童をわいせつ行為から守る環境整備」などさまざまな施策が打ち出され、包括的に子育て世帯をサポートする取り組みが推進される。

 今回の法改正で、児童自立生活援助事業の対象者などの年齢要件の弾力化が行われた。しかし、高校などを中退して18歳以前に施設や里親のもとを離れざるをえなくなった人や、18歳で進学、就職をしたものの中退、離職をしてしまった人、大学進学や就職の際に住居の契約や医療費で困難に直面する人などへの支援は極めて不十分だ。こうした若者の社会的自立を支援する仕組みをつくることが求められている。

 今回の改正法では、施設入所などの措置を解除された者に対する実情の把握や自立のために必要な支援は、都道府県が行わなければならない業務と位置づけられた。

 だが、現段階で既に自治体間の格差が大きい。どの自治体においても一定の支援が受けられるような支援の標準化が必要だ。

 整備する仕組みは明確になったが、それを実践する人材の育成や確保が今後の課題だ。現在でも国連・子どもの権利委員会から、児童福祉司の増員の改善勧告を受けている。専門職を養成できる研修担当者の育成や確保、適正な人材配置への改善や人材育成システムの充実などが急務だ。

 ◇すべての人が暮らしやすい社会

 私たちの社会は、決して子育てがしやすい社会ではない。その中で、さまざまな困難を抱える子どもたちを支援してきたのが社会的養護だ。

 社会的養護を充実させ、負の連鎖を断ち切ることは、すべての子どもが人間らしく生きるために必要であり、そのことがすべての人々にとって暮らしやすい社会を築くことになる。(政治プレミア)