「右目だけで見るとまっかにそまった室内」 糖尿病で亡くなるまでのリアルを残した体験記
糖尿病による体験記を記した男性のサイト『落下星の部屋』が紹介される。
明け透けな語り口で治療の様子や心身の変化を軽い調子で綴り、リアルな体験を読者に伝える。
右目の失明や右足切断など自らの体験を細かく綴った内容には、病気への向き合い方が浮かび上がる。
SNSの普及により、個々人の声は、発信者が亡くなった後でもインターネットに残り続けることがある。故人がネットに残していったサイトの紹介と解説を添えた新刊『故人サイト』より、糖尿病で亡くなった男性のサイトをご紹介します。
■心身の変化や治療の様子を書き残す
「落下星の部屋」は、糖尿病により2002年に亡くなった50代の男性・落下星さんのホームページだ。メインのコンテンツは自身の糖尿病体験記。
糖尿病を診断された後、右目の失明→神経障害→腎臓障害→右足切断→人工透析→左足切断→左目眼底出血と、悪化の一途を辿っていくが、その都度、心身の変化や施された治療の様子を事細かに書き残している。
特徴的なのはその語り口だ。悲愴感や悲壮感は一切なく、趣味のノウハウを伝えるような軽い調子に終始している。しかも、自己管理の甘い生活態度や泥縄的な考え方もすべてさらけ出している。
人に咎められることを恐れない明け透けな姿勢が生み出す圧倒的なリアリティは、読む者をものすごい勢いで追体験に誘う。
例えば、右目を失明したときの日記。
「蒸し暑い1日が終わり、帰宅してすぐに入浴し、食事を取りました。テレビではナイター中継をやっていました。
そのうち、いつのまにかビールが出て来て
知らない間に空き缶が増えていきました。(注:一人者です)
3缶目から4缶目に移ったときです。プルトップを開けて
テレビに目をもどしたら、
『なにかおかしい。』
『そうだ。ボールが見難い。』
変だぞと思って室内を見回しても、いつもと変わりないオレの部屋。でも、なにかかおかしい。物が見難い。ふと蛍光灯を見上げると、なんとなく赤っぽい。
訳がわからず、とりあえず手のひらで片目づつおおってみると、あらら、左目は正常なのに右目だけにするとまっかに染まった室内。」
「右足切断」のページも同じ調子だ。右足の親指の付け根が痛み出した4~5日後に親指が真っ黒に変色し、壊疽を起こしていると判明。そのまま入院して、切断するに至ったことを同じ調子で振り返っている。
「医師『さて、どこから切ろうか』
私『おまかせします』
医師『足首から切ってもいいんだが、再発しやすいから安全策を取るなら膝下からだな』
私『切るのは痛いんでしょう?』
医師『まあ…。痲酔はかけるし、飲み薬もだしてあげるよ』