自治体トップのハラスメント 「声あげていい」と思える環境作りとは

AI要約

自治体トップによるハラスメントやその疑惑が次々と明らかになる中、職員が内部告発で声をあげる動きが広まっている。

ハラスメントを告発した職員が不利益を被る可能性や、調査中に死亡するなど、職員を守るための態勢が必要であると専門家が訴えている。

自治体や企業におけるハラスメント対策は条例制定だけでなく、見える化された信頼できる相談窓口の設置や定期的な研修が重要だと指摘されている。

自治体トップのハラスメント 「声あげていい」と思える環境作りとは

 自治体トップによるハラスメントやその疑惑が次々と明らかになっている。権力者に職員たちが物申しにくい雰囲気を、内部告発で打ち破ろうとする動きだ。ただ、兵庫県知事のパワハラなどを告発した職員が調査の途中で死亡に至るなど、まだまだハードルが高いのが実情。専門家は職員を守る態勢の「見える化」が必要だと訴える。

 兵庫県では3月、斎藤元彦知事(46)によるパワハラや業者からの物品受領などを指摘した文書が報道機関などに配布された。元西播磨県民局長=7月に死亡=の内部告発で、知事は「うそ八百」などと否定。4月に県の公益通報窓口にも通報したが、その結果が出る前に停職3カ月の処分を受けた。県の調査だけでは不十分として、県議会が調査特別委員会(百条委員会)で事実関係を調査中だ。

 今春には岐阜県岐南町の小島英雄(74)、同県池田町の岡崎和夫(76)、愛知県東郷町の井俣憲治(57)の3町長がいずれも職員が声を上げたことをきっかけとして、第三者調査委員会にセクハラやパワハラを認定され、相次いで辞職。福岡県宮若市では6月、市議会が塩川秀敏市長(75)のパワハラなど8件を認定した。

 同県吉富町では、昨年9月に20代の男性職員が花畑明町長(68)らによるパワハラを苦に自殺未遂を図ったなどとして、町が調査を進める。沖縄県南城市の古謝景春市長(69)は、セクハラをめぐって市長公用車の女性運転手と係争中のほか、市議会の調査に複数の職員から被害の訴えが寄せられた。

■「発覚、氷山の一角では」

 以前に比べれば被害者が声を上げやすくなったとの見方はある一方、「発覚したのは氷山の一角では。どこの自治体でも起こりうる」と語るのは、東京都狛江市の佐々木貴史市議だ。

 18年、当時の市長が職員へのセクハラを認め、辞職した。これを契機に、佐々木氏ら市議の発案で全国初のハラスメント防止条例を制定。市長ら特別職や市議も対象に、加害が確認できれば公表できるとした。

 佐々木氏は「市長も例外なく『罰』の対象になるとの認識が広がることが肝」と話す。市担当者によると、条例制定後に外部相談窓口を設けるなどし、職員間の意識も高まったと手応えを感じているという。

 ただ、問題が発覚しないと対策は打たれにくいのが実情だ。一般財団法人「地方自治研究機構」の7月24日時点の調査では、57の自治体で特別職か議員、または両方を対象に含む条例が制定されているが、約1800ある自治体の3%あまりに過ぎない。

 一般社団法人「日本ハラスメント協会」(大阪市)の村嵜(むらさき)要・代表理事は「特に小規模な自治体ほど声を上げると誰が言ったのかがわかり、『うわさを流され、居づらくなる』『不利益な扱いを受ける』といった心配や不安を持ちやすい」と指摘。表沙汰になりにくく、その結果、対策がおろそかになりがちだと見る。中小企業なども同じような問題を抱えているという。

 そのうえで、条例制定だけでなく信頼できる相談窓口の設置や定期的な研修など、職員を守る態勢の「見える化」が必要だと説く。「みんなが『声をあげていいんだ』と思える環境を作ることが一番効きます」(山田知英、野口駿)