日本を「楽園のような国」と信じている…親日国・イランで日本人が絶対に言ってはいけないフレーズ

AI要約

イランの人々は政府や体制に対して強い不満を持ち、イスラム共和国を最大の敵として捉えている。

イラン人はイスラエルとの武力衝突を茶番として見ており、理性的な判断をしている。情報リテラシーが高いのは欧米メディアの影響があるが、西洋に洗脳されてはいない。

日本のマスコミはイランに関する報道でプロパガンダにだまされており、イラン国内の実態を正確に伝えていない。

イランとはどんな国なのか。『イランの地下世界』(角川新書)を書いた若宮總さんは「イスラム教の独裁国家というイメージが強いが、実際は全く異なる。イランの人たちは政府を嫌い、イスラム教に嫌気が差している」という――。(聞き手・構成=ジャーナリスト・末並俊司)

■イラン人の最大の敵は「イラン体制」

 ──今年4月、イランとイスラエルが初めて直接的な軍事衝突をしました。しかし、イランの人たち、特に若者はイスラエルのパレスチナ侵攻を支持していると著書に書かれていました。それはなぜでしょうか。

 今のイラン人、特に若者にとっての最大の敵はイラン・イスラム共和国です。打倒すべき最大の敵が自国の体制なんです。だから、敵の友であるパレスチナが敵になる。ロシア、中国も敵となります。レバノンやイラクの、シーア派、フーシ派、ヒズボラも全部敵です。彼らはそういう思考回路なのです。

 一方、敵の敵であるイスラエルが友になります。実際にパレスチナで何が行われているか、どんな悲惨な虐殺が行われているかは、割とイラン人の関心が低い。見て見ぬふりをしている。

 今年1月、シリアのイラン大使館が攻撃され、革命防衛隊の司令官らが死亡しました。イランはその報復として、4月にイスラエルを攻撃しました。その数日後に、イスラエルからイランへの反撃があった。そのときにイランの人々から「もっとやれ」という声があがりました。もっとわが国家を攻撃してくれと。

 これが、若い人たちの本音なのだと思います。もちろん自宅が攻撃されるのは困りますが、最高指導者の家をピンポイントでやってくれ、という人が結構いました。日本に当てはめると、首相官邸にミサイルを撃ち込んでくれと言っているようなものです。

■イスラエルへの攻撃は国家のメンツのため

 ──イランとイスラエルの武力衝突を、イランの人たちはどう見ているのでしょうか。

 力の見せあい、武力の誇示、競争に過ぎないと思っています。要するに本気でドンパチやって殺し合うつもりはない。茶番として見ています。政府が「これだけの力があるんだぞ」と示すことが目的であり、それ以上の意味はなかったと考えているのです。

 実際にイランのイスラム政府は攻撃の72時間前にイスラエル、アメリカ、周辺国に通知しています。「報復攻撃をするから、ちゃんと迎撃してくれよ」「迎撃してくれないと被害が大きく出て困るから」というメッセージです。

 ──なぜイラン人はかくも理性的なのでしょうか。情報リテラシーが高い理由を教えてください。

 欧米メディアの影響を受けているからだと思います。しかし、決して西洋にも洗脳されてない。そこが彼らのすごいところです。

 そもそもイランの国営放送が、ものすごくつまらない。あんなもの誰も見ていないんです。公共の場では国営放送が映るようになっていますが、自宅で見る人はほとんどいません。自宅に帰ると衛星放送でBBC(イギリス)。などの欧米メディアのペルシア語放送を見ているイラン人が大半です。

 最近、財政難を理由にテレビ放送から撤退してしまったマノトなどは反イスラム共和国どころか、王政復古、パフラヴィー朝礼賛の論陣を張る急先鋒でした。そういうものをイラン人は見ている。

■日本のマスコミはプロパガンダにだまされている

 このように衛星放送で、多様な海外メディアに接しているので、彼らはリテラシーが高いのだと思います。SNSもたくさん見ている。特にインスタグラムは若者から高齢者に至るまで使っています。インスタは日本だと若者文化のイメージですが、イランでは老若男女を問わず人気があるんです。

 ──日本では、イランで戦争ムードが高まっているとの報道をよく目にしました。

 いや、そんなの嘘です。日本のメディアは、イスラム共和国が言ってほしいことを報じているだけです。

 いわゆる示威行動(デモ)はありますが、サクラとして政府に動員される人も多くいる。バスに乗って何千、何万人という規模でテヘランに集まり、目抜き通りでデモをやれば、あたかも全国民が賛同しているように見えるわけです。そういう映像を作って、垂れ流している。つまりプロパガンダです。

 基本的に日本のメディアはイラン国内で自由な取材ができません。記者が取材する際には政府から派遣されるイラン人が必ず通訳兼監視役として付くそうです。彼らの意に反する取材や報道をしてしまうとイランで活動できなくなるリスクがあるので、イラン側のスタンスを鵜?みにするわけですね。

 しかし先日のNHKのニュースでは「やっぱり戦争はしてほしくない」というイラン人の声を拾っていました。なかなかNHKもちゃんとやっているな、と思いました。