過労死等防止対策推進法の施行から10年 夫亡くした経験生かし遺族に寄り添う「福岡家族の会」代表の安徳晴美さん

AI要約

安徳晴美さんが、過労死を経験したことから家族を失った人々を支援し、過労死の再発防止に取り組んでいる。

過労死対策推進法の施行から10年が経過しても、過労死は数多く起こり、撲滅に向けて活動を続けている。

安徳さんは遺族支援を通じて過労死を個人の問題ではなく社会問題と位置づけ、啓発活動も積極的に行っている。

過労死等防止対策推進法の施行から10年 夫亡くした経験生かし遺族に寄り添う「福岡家族の会」代表の安徳晴美さん

 「福岡過労死を考える家族の会」代表の安徳晴美さん(58)=北九州市=が、夫を過重労働で亡くした経験から、同じ痛みを持つ人への寄り添いや再発防止の啓発を続けている。向き合うのは、過酷な業務で家族を失った人、命の危険にさらされて働く人、そしてこれから社会に羽ばたく若者たち。過労死等防止対策推進法の施行から今年で10年。仕事で奪われる命はなお数多く、撲滅への思いを強くしている。 

 2021年冬、福岡市内のカフェ。安徳さんは、1カ月ほど前に夫を亡くした女性と向き合った。女性の涙声に、じっと耳を傾ける。やがて思いがあふれた。

 「この人は、あの時の私と一緒だ」-。

 女性の夫は教師として働く中、激務で心臓を患い、幼い子どもを残して命を落とした。遺族を支える「家族の会」の活動を知り、すがる思いで連絡してきた。

 安徳さんも17年、教師の夫を過重労働で亡くしている。子どもが7歳と4歳だった02年、高血圧性脳出血で倒れ、一度も目を覚ますことなく逝った。女性の姿と自分が重なる。「ほっとけない。救わなきゃ」。突き動かされる思いになった。

 女性は夫の死の原因が仕事にあると思い、公務災害の申請を考えていた。安徳さんも過去に手続きし、一度退けられた後に審査のやり直しで認められた経験がある。申立書などを書く際は夫の仕事ぶりを思い出し、つらさが増した。同僚の教員や弁護士、卒業生などの支えで闘うことができた。

 歩みに思いを巡らせ、語りかけた。「簡単じゃないから、自分一人の思いだけじゃなくて、家族とよく話し合おうね。応援態勢をつくることが大事だよ」

 その後も弁護士と何度も女性宅を訪れ、相談に乗っている。少しでも心のよりどころになればと思う。

 遺族への寄り添いは家族の会の代表に就いた19年から続けている。長時間労働で自ら命を絶ち、労災認定された人の母親などをサポート。連携する労働組合からの橋渡しで、過重業務などを苦に「死にたい」と口にする若手教員とも会う予定にしている。

         ∞∞

 併せて力を入れるのが、過労死ゼロに向けた啓発活動。各地で開かれるシンポジウムのほか、大学や専門学校で夫のことを語っている。医学部の学生向けに話をしたこともある。

 2日午後、九州大(福岡市)でも教壇に立った。声を詰まらせ、訴えかけた。

 優しくて体格が良くて、元気だった夫が仕事に命を奪われたこと。公務災害と認定されるまで自身も心労が重なり、体調を崩したこと。「いつも不安で、真っ暗なトンネルの中に入れられたような感じでした」

 遺族は、大切な人の死が公務災害や労災と認められることを切に望んでいる。「それは生活のことだけでなく、命を失ったのに何もなかったことにされるのが耐えられないから。(勤務先には)反省してほしいし、なぜ亡くなったかを検証して有効な再発防止策を取ってほしい。それが遺族の思いなんです」

 過労死を個人のことではなく、誰にでも起こる社会問題として見てほしいと安徳さんは願う。学生を見て、最後に力を込めた。

 「命より大事な仕事はないんです。それを心に刻み、社会に羽ばたいてください」

         ∞∞

 「福岡過労死を考える家族の会」のホームページ。

「公務・通勤災害」認定3万件超 22年度 地方公務員災害補償基金

 地方公務員は公務と通勤で病気やけがをすると「地方公務員災害補償基金」から収入や医療費の補償を受けることができる。基金の運営法人によると、2022年度の公務災害と通勤災害の認定件数は計3万3277件(前年度比14%増)で、公表されている12年度以降では最も多かった。

 22年度の認定の内訳は、公務災害が2万9662件(同15.9%増)で、このうち死亡は35件。通勤災害は3615件(同0.5%増)、死亡は5件だった。

 全体の認定件数を職種別にみると、「義務教育学校職員」が20.3%、「警察職員」が15.7%、「その他の職員」が44.1%。認定は12~21年度、年度ごとに2万7000~2万9000件台で推移している。

 一方、会社員が対象の労災は23年度、過重労働による脳・心臓疾患での申請が1023件、認定は214件。精神疾患の申請は3575件、認定は883件だった。