9歳のベトナム人少女を保護者会会長が殺害「日本とベトナムをつなぐ架け橋になりたい」が夢だったのに…《千葉小3女児殺害事件》はなぜ起きた

AI要約

2017年、日本で殺害された9歳のベトナム人少女について。幸せな家族の日常から突如行方不明になり、遺体が見つかる悲劇が起きた。加害者は少女の通う小学校の保護者会長であった。

少女は将来「日本とベトナムをつなぐ架け橋」になることを夢見ており、父も同様の願いを込めて日本に家族を呼び寄せていた。しかし、その願いが悲劇を招くことになる。

事件が起きた背景や加害者の動機は不明であり、被害者の幼さや未来への希望を奪う無残な事件である。

9歳のベトナム人少女を保護者会会長が殺害「日本とベトナムをつなぐ架け橋になりたい」が夢だったのに…《千葉小3女児殺害事件》はなぜ起きた

 2017年、千葉の松戸で殺害されたレェ・ティ・ニャット・リンさん(当時9歳)。「日本とベトナムをつなぐ架け橋になりたい」という夢を持つ幼い少女はなぜ殺されたのか? 事件後の家族や加害者を追った高木瑞穂氏と、YouTubeを中心に活躍するドキュメンタリー班「 日影のこえ 」による新刊『 事件の涙 犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)

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 小学校の入学式直前に撮られた動画には、家族の何気ない日常が記録されていた東京タワーを中心として広がる、東京・芝公園の一角である。雲一つない空の下、遊歩道でスマホのカメラを構えるベトナム国籍の父親レェ・アイン・ハオ(事件当時34歳。千葉県松戸市在住)を目指して、ピンク色の靴を履いた娘のレェ・ティ・ニャット・リン(同9歳)が楽しそうに駆け寄る。絵に描いたような、強い絆で結ばれた家族の理想の休日像である。だが、この動画が撮られた約3年後の2017年3月24日、少女は行方不明になった。

 その日、元気よく登校したリン。授業が終われば、いつもは15時には帰宅していた。ところが、夕方になっても、夜が明けても帰ってこない。両親の要請で、警察や地域住民による捜索が始まる。そして3月26日、自宅から約10キロ離れた千葉県我孫子市の排水路脇で、少女は冷たい雨が降るなか遺体で発見された。

 その約3週間後に逮捕されたのは、渋谷恭正(同46歳)。リンが通う小学校の保護者会で会長を務め、通学路で子供たちを見守る活動までしていた男だった。なぜ、渋谷はリンを狙ったのか。動機は裁判でも明らかになっていない。ただし、リンが出生よりこのかた眩いばかりに輝いていたことは、学校の授業で書いた作文の一節にはっきりと残されている。

〈日本とベトナムをつなぐ架け橋になりたい〉

 家族をベトナムに残し、2007年から単身日本でIT技術者として働いていたハオも娘と同じ思いだった。

「小学生がひとりでランドセルを背負って学校に行く姿を見て、感動しました。日本はなんて安全で良い国なんだろうと。ベトナムでは考えられないことです。だから自分の子供にも日本で育ってほしいと思っていました。日本とベトナムの架け橋になるような人間に育ってほしいと」

 ハオは、娘リンのミドルネームをベトナム語で日本を意味する「ニャット」とし、生まれてすぐに家族と共に日本に呼び寄せた。しかし皮肉にも、父の願いは最悪の結果を招く。まだ小学3年生ながらも、異国の地で暮らす外国人ならではの夢を抱いていた少女は、顔見知りの男の犯行により不慮の死を遂げるのである。