「Fラン大卒も正社員になれる人はすでになっている」専門家は口を揃えるのに"氷河期対策"に金が流れる謎

AI要約

雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんによると、就職氷河期問題について、雇用やキャリアの専門家は氷河期世代でも正社員になれる人は既に正社員になっており、深刻な対策は不要と述べている。

就職氷河期は大学卒業時に正社員になれず非正規就労を続ける人が多かったが、その後徐々に正社員化が進んでいった。

データから明らかになる就職氷河期の厳しさや、正社員で就職できた人の数、大手企業への就職数の推移を示しつつ、氷河期世代の実績や状況を明らかにしている。

就職氷河期問題とは何なのか。雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは「雇用やキャリアの専門家は氷河期世代でも正社員になれる人はすでに正社員になっており、これ以上の対策は……と口を揃える。必要以上に深刻に報じるマスコミも政府も、雇用の統計と現場のリアルを読み切れていないのではないか」という――。

■就職は厳しかったが、その後「正社員化」が進んだ

 就職氷河期に大学を卒業し、まともに就職できず、そのまま非正規就労を続ける人たちは、こと男性に限ると、全く多くはなく、他世代と比べても少ないくらいだ。前回はこの事実を、労働力調査を基に示した。

 確かに就職氷河期に大学を卒業し、その時点で正社員になれなかった人は多い。が、その後、徐々に正社員化が進んでいった。今回はその状況を見ていくことにしよう。

 最初に、就職氷河期とはどれほど厳しいものだったのか、をデータで示しておく。

 図表1は、卒業時点で無業(進路未定・一時的な仕事に就いた人)だった人数と、その卒業生全体に占める割合を示したものだ。

 2000年~2003年の間、無業者割合は25%を超え、卒業生の4人に1人以上が無業だった。これだけで、超氷河期の新卒就職が難しかったかが十分に分かるだろう。

 ただし、これが実態以上に喧伝されている嫌いがある。

■正社員で就職できた人のほうがはるかに多い

 この時期でも、正社員就職できた人の数は、無業者よりもはるかに多い(図表2)。超氷河期の就職数は30万人ほどであり、無業者の倍以上いるのがわかる。こうした現実が忘れられて、誰も彼もが就職できなかったように言われていることが、一つ目の間違いだ。

 氷河期前のバブル時代は就職数が確かに多かった。それでも、学年当たりの就職数は35万人に届かないくらいであり、超氷河期との差は5万人弱しかない。その程度の差なのだ。

■「氷河期は大手企業に入れなかった」への反論

 ただ、「人数的に大差なくとも、中身が異なるだろう。バブル期は大手企業に入れたのが、氷河期は名も知れぬ中小ばかりだったのではないか」という声が聞こえてきそうなので、次のデータを出しておく。

 こちらは、雇用動向調査を基に、大卒で従業員1000人以上の大手企業に、新規入職した人の数を示している。この数値には、正社員のほかに、フルタイムの契約社員も含まれる。ただ、20代前半のフルタイム契約社員実数は労働力調査などから「少数」であることがわかるため、その多くを正社員と考えて相違ないだろう。

 図表3からわかる通り、大手への大卒新規入職数はバブル期にピークとなり、14万5600人にも上っている。バブル崩壊後その数は急減し、2000年に8万7100人でボトムとなる。以後、10万人前後で超氷河期は底這いを続けている。

 確かに、超氷河期は、大手企業への採用が減ったが、その減少幅は特異的に採用が多かったバブル期の3~4割減にとどまる。超氷河期とは、やはりその程度のものなのだったのだ。あの就職売り手市場と言われたバブル期ピークと比べても、総就職人数で15%弱の差、大手への就職数でも3~4割の違いに留まる。平年と比べれば、就職人数で2~3万人、大手就職数では1~2万人の差に留まるだろう。世に言われる「名も知れぬ企業に就職するか、はたまた無業かといった絶望的」なものでは、全くない。

 この時期は、eビジネスの黎明期にもあたる。今を時めく、ヤフーや楽天、DeNa、サイバーエージェントなど、21世紀の勝ち組企業が大口の採用をしていて、現在そこで重席に座る氷河期世代は多い。好況期であれば、海のものとも山のものともわからないこうした新進中堅企業は、えてして見向きもされなかっただろうから、万事塞翁が馬と言える部分もあるだろう。

■景気が悪いと「就職先が1ランク下がる」程度の違い

 当時私は、人材ビジネスの企画職と編集職を行ったり来たりしていたので、氷河期世代の就職の実相を、取材や企業ヒアリングを通してよくわかっている。

 まず、今も昔も、就職は各大学のレベルに合わせて、相応な入社先が決まっている。その大学の過去の採用実績を見れば容易にそれは察しがつく。

 平時ならそうした「身の丈」レベルの企業に就職するところが、景気が良くて売り手市場だと、1ランク上の企業を選ぶことができる。逆に景気が悪いと、1ランク下がる。そうした「上下1ランク」程度の変動が景気により起きる。

 たとえば、早慶旧帝大などのSランク校であれば、通常時ならエスタブリッシュな超大手企業に多数が就職できただろう。ところが、不況期になると、大手は大手でも、あまり名の知れない企業や、BtoBの地味な企業などが増える。そんな程度の変動なのだ。間違っても、Sランク大学出身者の大半が名も知れない中小企業に入ったなんてことはないし、逆に言えば、今でもSランク大学出身者が少数ながら名も知れない中小企業に入ってもいる。