生成AIにより「量産型の音楽」は消滅する…参入障壁が下がった「音楽業界」のエコシステムに変化

AI要約

音楽業界の様子やクリエイターの変化について、弁護士であり作曲家でもある高木啓成さんのインタビュー内容を要約すると、今後の音楽業界はAIやセルフマネジメントが重要になってきており、作家事務所とのトラブルや契約書の重要性などがクリエイターにとっての課題であると述べられています。

AIによる音楽生成が進んでいる中で、量産型の音楽やクリエイターの役割が変わっていく可能性が指摘されており、個性ある作品やクリエイターが求められる未来について考察されています。

また、AIが音楽業界にもたらす影響や今後のクリエイター活動で重要となるポイントについて、契約や著作権の保護など法的知識の重要性が強調されています。

生成AIにより「量産型の音楽」は消滅する…参入障壁が下がった「音楽業界」のエコシステムに変化

激動の時代だ。音楽業界も例外ではない。動画サイトやサブスクを通じた売上が大きく伸びているだけでなく、音楽の生成AIまで登場して話題に事欠かない。

今すぐに「生成AIだけ」で作られた楽曲に音楽チャートが席巻される事態はなさそうだが、音楽クリエイター(作詞家・作曲家)の参入障壁が下がっているのは間違いない。

こうした状況の中で、「HKT48」にも楽曲提供している作曲家であり、エンターテインメント法務にくわしい弁護士である高木啓成さんは「従来のエコシステムに変化が生まれている」と指摘する。

高木さんは4年前の2020年、クリエイター向けに権利とルールを教える書籍を刊行したが、その第二版がこのほど出た。この4年でどのような変動があったのか、高木さんに聞いた。

●セルフマネジメントしながら活動する人が増えた

――音楽業界をめぐって、この4年で変わったことは?

これまで、音楽のクリエイター(作詞家・作曲家)は、作家事務所に入って、作家事務所から仕事を受けたり、アーティストやアイドルのコンペに応募して曲が採用されると印税が入り、仕事が増えていく・・・というエコシステムで、この中に入っていくことがメインストリームでした。

一方で、この4年の間に、クリエイターは個人でYouTubeに曲を投稿してファンを増やしたり、アーティストとしても活動してコンサートやグッズの収益を上げるなど、セルフマネジメントをしながら活動する人が増えたと感じています。コロナ禍で、レコード会社がリリースイベントをできなくなり、結果、作家事務所の仕事が減ったことが背景でしょう。

クリエイターからの相談内容も変わってきています。以前は、トラブルに巻き込まれたという相談が多かったのですが、今はセルフマネジメントに関連して、たとえば個人マネージャーとの契約書や、企業案件の契約書まわりなど、企業法務的な内容が増えています。

――音楽業界のエコシステムが激変した?

エコシステムが変わりつつあるということは間違いありません。もちろん大手レコード会社に曲を提供するメリットはあります。ただ、それがメインストリームという意識は薄れてきていると思います。テレビタレントとYouTuberの関係と似たような話かもしれません。

●実演家とくらべて深刻な「やめられない」問題

――クリエイターからの相談で一番多いトラブルは?

一番多いのは、作家事務所とのトラブルだと思います。たとえば、そもそも作家事務所との間で契約書がなかったり、契約を結んでいても「専属・自動更新3年」という条件を見過ごしていたり。つまり、やめたいけど、やめられない問題です。

アイドルなどの実演家の場合、昨今の裁判例では、実演家の労働者性が認められて契約期間が無効とされるような実演家側に有利な判決が目立っていますが、作家は労働者として判断されるのは難しいと思われます。作家は、時間管理されず、どこで仕事するかも完全に自由です。どんなに忙しくても、その意味では自分の裁量で仕事できるので、労働者と言いづらいところがあります。

――どういうときにクリエイターは作家事務所をやめたいと思うのか?

お金の問題が大きいと思います。作家事務所の中には、大手から中小まであり、別の作家事務所から仕事を受けている「孫請け」の事務所もあります。大手は作家の取り分が大きい傾向にありますが、孫請けになるとほとんど取り分がなくなります。

もう一つは、もっと活動の場を広げたいということもあります。駆け出しのときに何もわからずに孫請の事務所と長期の専属契約をしたけれども、いろいろなジャンルのアーティストの仕事をしたり、作曲だけでなく編曲の仕事もするために、よりステップアップできる作家事務所に移籍したい、という気持ちになるわけです。

ーー書籍の中でも、音楽クリエイターがきちんと著作権使用料を得られるようにアドバイスしているがポイントは?

YouTubeで活動している音楽クリエイターは、YouTubeパートナープログラムで得られる広告の収益のほかに、JASRACからの著作権使用料も得られます。人気のクリエイターでも知らない人がいるので、この点は書籍で解説しています。

また、楽曲提供した際に、著作権の扱いを決めておらず、本来得られるべき著作権使用料を得られていないというケースもあります。きちんと契約書を作っておかないと、のちのちトラブルになるということですね。

たとえば、特に駆け出しの音楽クリエイターは、地下アイドルに楽曲を提供する機会も多いのですが、明確な合意もないまま、アイドル運営側だけが著作権使用料を取得し、クリエイターに分配されていなかったケースもありました。

――先に法的な知識を持っていたほうがいい?

情報が溢れている世の中になっても、初めて契約するときは、どうしても知らないことのほうが多いと思います。契約する前に、弁護士に限らず、有識者、経験のある人に相談したり、調べてみることが大事です。

そして、中抜しようとする人や会社はどこにでもいます。たとえば、YouTubeで音楽活動をしているダイヤの原石のような人たちに「うちに楽曲を預けてくれれば音楽配信もしますし、著作権使用料も得られますよ」という。

その契約書には「10年間」と書かれている。多少の事務作業は必要ですが、音楽配信の手続は自分でもできますし、著作権使用料も得ることができます。本当に10年間もつきあっていくのか、しっかりと見極める必要があるでしょう。

●「量産型の音楽」は減っていくかもしれない

――生成AIの作曲については?

昨年夏頃までは音楽生成のAIはレベルが低かったので、イラスト業界の危機迫っている感じは「対岸の火事」でした。ところが、昨年秋以降、スノやウディオが登場して、音楽業界もザワつきはじめました。現段階のAIはまだそのまま商品になるクオリティまでは至っていませんが、インスピレーションをもらうには十分なレベルなので、作曲家として使う分は楽しい反面、もちろん危機感はあります。

――生成AIによって、どんな未来になる?

これまでは、ある意味「量産型の音楽」が求められる傾向にあったんですが、そういうクリエイターの仕事はどんどん置き換わっていくんじゃないかなと思います。今まで敬遠されていたような強烈な個性がある作家が生き残っていくんじゃないでしょうか。

僕の楽曲がメジャーレーベルに採用されたのは、70曲目なのです。その間、いわゆるJ-POPとして「うまく」なっていったのは事実ですが、反面、「個性を消す作業」をしていたようにも思います。生成AIが音楽を量産する時代に合わせて、求められる音楽も変わっていかなければ、若い人が音楽クリエイターを目指すモチベーションを阻害してしまう気もしています。