仮設住宅で焼く、亡き父が喜んでくれたチーズケーキ…輪島を離れた姉と週1で電話

AI要約

中学生が亡き父に似てチーズケーキを作る日常の一コマ。

父の健気な思い出と共に、家族は避難所から仮設住宅で新たな生活を始める。

姉との短い電話でつながる家族の絆。

 6月中旬の日曜、石川県輪島市の仮設住宅でチーズケーキ作りが始まった。背中を丸めて調理する姿は、亡き父にどこか似ている。

 学校図書室で借りたレシピ本をのぞき込みながら、中学3年の日吉陽雅(ようが)君(15)が砂糖の量を量り、鍋に卵黄や牛乳を加えていく。「グツグツしたら、火を止めて」「すぐに混ぜる。早く」。矢継ぎ早に指示すると、手伝う母のウィルマさん(38)は「はい、ごめんなさい」と笑いながら手を動かした。

 自宅の倒壊で亡くなった父の浩幸さん(当時63歳)は料理が得意で、朝5時に起きて家族に朝食を作ってくれた。陽雅君も見よう見まねで、小学6年の頃から台所に立つようになった。

 今は母が仕事で遅くなった夜、パスタや唐揚げを自分で作る。チーズケーキは初挑戦した2年前、浩幸さんも「おいしい」と喜んでくれた思い出の一品だ。

 焼き時間が短かったせいか、この日のケーキは少ししぼんだが、甘さひかえめでおいしかった。遊びに来ていた同級生の海津颯星(はやせ)君(15)はしょっちゅう一緒にいるが、「普段の姿からは想像できない」と菓子を作る手つきに驚いた。

 母子2人が避難所から仮設住宅に移って1か月半。フィリピン出身で日本語が苦手なウィルマさんを気遣う父はもういない。陽雅君が、行政からのお知らせを読み、書類を代筆する。母は息子のことを信頼しきった表情でうん、うんとうなずく。

 陽雅君は週に1度、姉の彩さん(16)と電話する。

 「おれ、体重減ってちょっと痩せた」

 「すごいやん」

 彩さんはいつも聞き役に回る。姉に気を許し、学校の出来事や母の様子を一生懸命伝えてくる弟を「かわいい」と思う。父の話だけは2人ともほとんどしない。

 2学年上の彩さんは、スポーツ奨学生として入学した日本航空石川高校に自宅から通っていたが、地震の影響で学校が移転。家族のもとを離れて東京の寮に入り、バレーボールざんまいの日々を送っている。