富士山の登山ルール変わる 懸念の「弾丸登山」は解決するか

AI要約

7月1日から登山ルールが大きく変わる富士山。山梨県側の吉田ルートでは、通行料の徴収と入山制限が始まる。高齢者や外国人にとって理解しにくい規制に期待と不安が入り混じる。

富士吉田市や山小屋関係者は弾丸登山対策を求め、県に夜間登山の制限を要望。吉田ルートの通行予約システムも開始され、事前予約でスムーズな入山が可能となる。

一方、静岡側の富士山登山ルートは7月10日から始まる。静岡県も事前登録システムを採用し、登山計画や装備についての情報提供を行っている。

 7月1日から登山ルールが大きく変わる富士山。山頂に向かう4ルートのうち、山梨県側の「吉田ルート」では、県が5合目に新設したゲートで通行料を徴収し、人数と時間帯によって入山を制限する。十分な装備なく夜通し登る「弾丸登山」の対策を求めてきた山小屋関係者らは、期待と不安の中で登山シーズンを迎える。

 80代から定期的に登り始めた富士吉田市の上小沢静江さん(90)は、通行料について「山のために使うなら良いこと」と受け入れる。女性最高齢(現在の記録は95歳)での登頂を目指し、2022、23年も頂上に立った。入山規制は「高齢者や外国人に分かりにくい。目の前で『帰ってください』ということがないようにしてほしい」と話した。

 富士山人気の高まりで、ふもと自治体は「弾丸登山」への懸念を募らせてきた。吉田ルートでヘルメットの貸し出しなどをする6合目の安全指導センターや、8合目の救護所を運営する富士吉田市は23年12月、山小屋関係者らとともに、県に夜間登山の制限を要望した。堀内茂市長は「ゲート設置にほっとしている。混雑の回避や弾丸登山を解決する一助になる」と期待を寄せる。

 県は通行予約を受け付け、登山者数の事前把握も目指す。26日午後4時現在、開山期間中(9月10日まで)に予約したのは計2万3672人。1日の予約枠(3000人)が埋まった日はまだない。当日枠もあるが、県の担当者は「事前予約ならスムーズに入山できる」とメリットを訴える。

 ただ、予約して通行料を事前に支払うと、多少の悪天候では返金されない。ある山小屋関係者は「(無理して)登ろうとする人が出てくるのではないか」と懸念する。県は、5合目までの有料道路「富士スバルライン」が強風や大雨で通行止めになったり、登山道が崩れる危険が生じたりした場合に限り返金するというが、「スバルラインが通れないのは、天気が相当に悪い時だ。天候に気をつけるように言いながら返金に応じないのは矛盾ではないか」と疑問視する。

 また、吉田ルートの山小屋経営者らによる富士山吉田口旅館組合によると、受け入れ可能な宿泊者は1日2000人で、開山期間中の予約はすでにほぼ埋まっているという。別の関係者は「今から山小屋を確保するのは難しい。午後4時前にゲートを通って弾丸登山するケースが出るのではないか」と心配する。

 一方、静岡側から登る富士宮▽御殿場▽須走――の3ルートは7月10日、登山シーズンが始まる。

 静岡県は今季から、登山計画や山小屋宿泊の有無の事前登録をウェブサイトで受け付けている。登録人数に上限は設けないが、登録時には、富士山の気象や必要な装備を解説する約7分間のアニメ動画を視聴する。27日現在、約1万3000人が登録している。事前登録がない場合、5合目登山口などでルールの説明を受ける必要がある。

 さらに、午後4時以降の登山自粛も求める。県の担当者は「対策は注意喚起が中心。お願いしても守れない人が出てくれば、規制も考えなければいけない」と話した。

 環境省によると、2023年の開山期間中の登山者は、山梨、静岡の4ルートで計22万1322人。コロナ禍前の19年(約23万人)に迫る水準に回復した。登山者のピークは10年の約32万人で、マイカー規制などで減少傾向にある。山梨側の「吉田ルート」は例年、登山者の約6割が利用する。【野田樹】

 ◇富士山の入山規制

 山梨県が今季始める県側登山道「吉田ルート」での通行料2000円の徴収と入山制限。登山者を1日最大4000人とし、午後4時~午前3時の通行を制限する。山小屋宿泊者は対象外。県は5合目に規制ゲートを新設した。富士登山オフィシャルサイトで通行予約と通行料の事前支払いができる。