「我が国周辺でもウクライナ同様の事態が起きる可能性は否定できない」…吉田統幕長インタビュー要旨

AI要約

自衛隊の70年の歴史と国際情勢の変化について、吉田統幕長が語る。

大国間競争の時代において、自衛隊が果たすべき役割とは。

インド太平洋地域の安全保障上の枠組みと自衛隊の役割について。

 吉田統幕長の書面インタビュー要旨は以下の通り。

――国際社会は70年で幾度となく歴史的な転換を経験し、自衛隊の態勢も拡充されてきた。所感は?

 自衛隊創設後の70年間は、〈1〉米ソ冷戦期(~89年)〈2〉ポスト冷戦期(90年代~2010年代)〈3〉新たな大国間競争期(20年代~)の三つに区分されていると考えている。

 18年に米国の対中政策が協調から競争へ転換したのを契機に、多極構造の下、米中の戦略的競争を主軸とした大国間競争の時代が始まった。この時代は21世紀半ばまで続くだろう。

 大国間競争の主要な正面であるインド太平洋、中でも、力による現状変更を試みる中国、北朝鮮、ロシアに隣接する我が国は、最前線に位置する。我が国周辺においても、ウクライナと同様の深刻な事態が起きる可能性は否定できない。

 こうした危機感から、新たに安全保障関連の3文書が策定され、防衛力を抜本的に強化するとともに、日米同盟の抑止力を強化することとなった。

 ――国際社会は力による現状変更を試みる動きへの対応に苦慮している。自衛隊はどんな役割を担うべきか?

 70年間、政府、国民、そして自衛隊の諸先輩の努力により、我が国への武力攻撃事態は一度も起きなかった。戦後最大の試練に直面している現在、我々の最も重要な使命は、引き続き我が国に対する武力攻撃を起こさせないことだ。加えて、インド太平洋地域の平和と安定にも最大限寄与することだ。

 インド太平洋地域の安全保障上の枠組みは、米ソ冷戦時代には、米国を中心として2国間同盟を放射線状につなげる「ハブ・アンド・スポーク」だった。現在は日米豪を中核としつつ、フィリピンなどの東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国、インド、英国やカナダなどの北大西洋条約機構(NATO)諸国、韓国など、法の支配に基づく国際秩序を維持しようという諸国と格子状の連携を深める方向に変わってきている。

 3国間、4国間などの「ミニラテラル」の多層的ネットワークを強化し、共同演習においてできる限り多数の同盟国・同志国を結集することが、法の支配に基づく国際秩序を維持する「力」となる。自衛隊として積極的な役割を果たしていく。