岸田首相がリニア「2023年開業」に舵を切る…静岡県知事にのしかかる「1年以内解決」の圧力

AI要約

岸田首相が2037年を目標とするリニア全線開業を支持し、静岡県知事に表明。

静岡県のリニア問題解決が2037年目標達成の鍵となる。

新知事就任後の静岡県とJR東海間の対話や進捗について。

岸田首相がリニア「2023年開業」に舵を切る…静岡県知事にのしかかる「1年以内解決」の圧力

 岸田文雄首相が6月7日、「2037年」を目標とする東京・品川―大阪間のリニア全線開業の実現を堅持することを静岡県の鈴木康友知事を含めたリニア沿線8県知事に表明した。

 静岡工区の未着工を理由に、JR東海は品川―大阪間の2027年開業を断念したが、官邸では「2037年」を目標とする品川―大阪間の全線開業の実現に向けて舵を切った。

 「2037年」の目標を掲げて、岸田首相が積極的に支援することを明らかにしたのだ。

 ただそうなると、いちばんの障害になるのが、静岡県のリニア問題である。

 水資源確保、南アルプス保全などの課題すべてを「1年以内」に解決しなければ、「2037年」の全線開業を目指すことなどできるはずもない。

 本当にそんなことが可能なのか? 

 6月12日、島田市役所で開かれた国のモニタリング会議で、JR東海と静岡県の対話状況を伝える資料で、静岡県が「1年以内の解決」を目指していることがはっきりとわかった。

 川勝平太前知事が4月9日に辞表を提出後、5月28日に新知事が就任する知事不在の間に、事務方とJR東海との実務協議が20回以上も行われていた。

 その協議で、川勝氏の言い掛かりとも言える懸案事項について、JR東海の主張を受け入れるかたちで進捗していた。

 モニタリング会議事務局の国交省が積極的に関与して、JR東海が工事着工に向けた県の行政手続きを進めることができるよう指導していた。

 5月13日公開で行われた県地質構造・水資源専門部会は、これまでの川勝氏の言い掛かりを丸のみにして、JR東海の主張をそのまま認めた。

 つまり、県リニア問題責任者の森貴志副知事はじめ担当職員は、‟川勝色”を一掃した上で、なるべく早期の解決に向けて新知事を迎える準備を進めていることがわかった。

 それと同じことが、非公開の事務方の協議でも行われていたのだ。

 川勝氏の突然の辞職を受けた知事選では、自民党推薦で総務官僚だった元副知事の大村慎一氏が、最大の争点となったリニア問題に関して、5つの約束を掲げ、「責任を持って解決する。1年以内に結果を出す」と主張していた。

 あまりに自信たっぷりの「リニア公約」を掲げたから、県庁内部で、大村氏の当選を前提にして、「1年以内の解決」に向けた準備に入ったことが予測された。

 知事選の最中に、県職員のほとんどが大村氏を応援しているといううわさが流れていたから、そんな準備を進めていたとしても、何の不思議もなかった。

 残念ながら、大多数の県職員らの期待を裏切り、立憲民主、国民民主の推薦を受けた鈴木知事が自民候補の大村氏に7万7千票余の大差をつけて圧勝した。

 鈴木知事は菅義偉前首相らとのつながりも深いだけに、自民党色の強いリニア「期成同盟会」は、川勝氏の後継者となった鈴木知事に大きな期待を寄せた。

 そんな中で、岸田首相は「2037年全線開業の目標」を掲げて、リニア推進のムードを高めたかったのだろう。

 「期成同盟会」に新加入した鈴木知事に、「2037年全線開業の目標」に賛同してもらうことで、大村氏の掲げた「1年以内の解決」をそのまま受け入れてもらいたい思惑も見え隠れしていた。

 さて、鈴木知事が「1年以内の解決」の勢いに押し切られるのかどうか、知事就任したばかりのいまがまさに正念場と言える。

 6月11日の会見で、記者から「2037年全線開業の目標」の実現性を問われると、鈴木知事は「静岡県の立場をしっかりと(岸田首相に)伝えた。水の問題、南アルプスの環境保全の両立を図っていく。スピード感をもってJR東海と対応を進めなければならない」と慎重な姿勢を見せた。

 さらに、静岡空港新駅設置について、「現実的な対応策を見つけたい」と、今後、JR東海との対話を始めていくことからも、「2037年全線開業の目標」実現をそのまま鵜呑みにしなかったことになる。

 4期を務めた浜松市長時代と違い、沼津、三島などの伊豆、東部地域や静岡、焼津、島田などの中部地域、浜松、磐田、掛川など西部地域と横に長く広い静岡県の諸課題は多岐にわたる。

 すべてを把握して的確な判断を示すのには、しばらく時間が掛かるだろう。

 後編記事『岸田の言うことは聞かなくていい…リニア問題スピード解決を迫られる鈴木知事の「最大の心配ごと」』では、リニア問題に鈴木知事がどのように解決していけばいいのか解説する。