【独自】いじめ自殺、国の統計に構造的な計上漏れ 翌年以降の認定分を反映せず、実数の半分以下に

AI要約

警察庁の自殺統計には、いじめが原因とされる児童生徒の自殺が計上漏れしていることが分かった。

自殺の翌年以降にいじめが認定されたケースは統計に反映されず、実際の数は統計上の半分以下にとどまっている。

国や自治体は実態を正確に把握し、適切な対策を講じるために、統計の修正や報告を含めた仕組みを整えるべきだ。

【独自】いじめ自殺、国の統計に構造的な計上漏れ 翌年以降の認定分を反映せず、実数の半分以下に

 国や自治体が子どもの自殺対策などの基礎資料に使う警察庁の自殺統計のうち、いじめが「原因・動機」の児童生徒の自殺について、構造的な“計上漏れ”があることが西日本新聞の取材で分かった。自殺の翌年以降に学校などの調査でいじめが原因と認定されたケースを統計に反映する仕組みがなく、2013年からの10年間で少なくとも小中高生44人の「いじめ自殺」が計上されていなかった。統計上は42人で、実際の数の半分以下しか統計に含まれていないことになる。

 警察庁は毎年、自殺事案の捜査をした都道府県警の記録を基に自殺統計をまとめている。年代・地域別の自殺者数や、遺書などから分類した原因や動機に関する項目もある。

 原因・動機の分類でいじめは「学校問題」に含まれる。本紙が統計を精査したところ、学校や自治体の調査でいじめと自殺との関連が判明した複数の自殺事案が、いじめが原因・動機の児童生徒の自殺に含まれていなかった。例えば、17年には長崎市の私立海星高の生徒がいじめを苦に自殺したが、同年の長崎市における学校問題の自殺者はゼロと記載されている。

 警察庁は取材に「統計の数値は捜査で把握できた範囲の情報」と説明。捜査終了後に自殺の動機が分かっても、原則として過去にさかのぼって統計を修正することはないという。海星高の事案でいじめと自死との関連が認められたのは自殺の約1年半後だった。自殺当初は動機が不明で、後にいじめが発覚することは珍しくないが、その場合は「時間の壁」で統計から漏れてきたことになる。

 自殺統計は、厚生労働省が毎年の自殺対策白書をまとめる際の基礎資料。厚労省は取材に「事実上、自殺の実態を正確に把握できていないことになる」と認めた上で「現在の方法以外に国が自殺事案の分析をする手段はない」とする。

 同様の“計上漏れ”は、文部科学省が問題行動・不登校調査で公表している「置かれた状況にいじめ問題がある児童生徒の自殺者数」の件数でも起きている。

 同調査で、いじめが背景にある児童生徒の自殺者は13年からの10年間で85人とされているが、本紙の調べでは、少なくとも19件のいじめが認定されたケースが計上されていなかった。

 同調査は全国の学校が報告書を提出する方式。文科省によると、自殺の翌年度以降に「いじめがあった」と認定した場合、国へ報告するかどうかは各校の判断に委ねられている。報告がなければ調査結果が修正されることはないという。過去に報告があったのは全国で1件のみだった。

 文科省児童生徒課の担当者は「学校からの報告は適切だと考えている。自殺の動機が不明だった事案について、調査結果を国から学校に確認する必要はない」と話した。

 (長田健吾)

 教育評論家の武田さち子さんの話 捜査で得た情報のみしか統計に盛り込めないという警察の立場は理解できる。ただ、児童生徒のいじめ自殺に関する正確な統計がないことは、国として問題がある。実態を正確に把握できていないのに有効な防止策を採ることはできないからだ。文部科学省の調査でも、いじめを隠そうとする学校などから正確な報告が確実になされているとは考えにくい。自殺した子どもが統計上でどのような分類をされたのかを遺族が把握でき、もし誤りがあれば修正できる仕組みを国として作るべきだ。