「地震の後には雨が降る」は本当なのか…意外と知らない「二次災害の危険性」

AI要約

2011年3月11日、戦後最大の自然災害となる東日本大震災が発生し、それ以降も震災が続いている。

複合災害の危険性が高まる中、避難行動や避難指示の重要性が強調されている。

災害に備え、自らの安全と家族の安否を確認する必要がある。

科学的な因果関係は不明だが、地震と豪雨の複合災害による被害が過去に起きた事例がある。

適切な避難情報の判断と行動が重要である。

近年の災害事例を踏まえて、避難指示の適切な出し方に関する課題が浮かび上がっている。

地震と豪雨による災害が起きた際の対応策が必要である。

避難情報の的確な受け取り方や行動計画の確立によって、被害を最小限に抑えることができる。

全国各地の伝承や過去の災害教訓から学び、未然に災害に備えることが不可欠である。

「地震の後には雨が降る」は本当なのか…意外と知らない「二次災害の危険性」

 2011年3月11日、戦後最大の自然災害となる東日本大震災が発生した。あれから13年、令和6年能登半島地震をはじめ何度も震災が起きている。

 しかしながら、これから起きうる大きな自然災害(首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山噴火)について本当の意味で防災意識を持っている人はどれほどいるだろうか。

 もはや誰もが大地震から逃れられない時代、10刷ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。

 (※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)

 皆さんは「地震の後には風が吹き、雨が降る」という諺をご存じだろうか。科学的な因果関係は不明だが、総務省消防庁の公式サイトに掲載されている全国災害伝承情報には「地震があると、天候が変わる」「朝十時に地震があると晴となり、五時頃だとあめとなる」といった全国各地の言い伝えが紹介されている。地震の後に降雨があれば二次災害の危険性が高まるのは当然で、そうした教えを残してきたのかもしれない。

 大地震の発生時、まず襲来するのは激しい揺れや津波、火災だ。それだけでも命を守る行動で手一杯となるが、そこに豪雨が訪れれば複合的な災害に襲われることになる。降雨で地盤が緩み、土砂災害や堤防の決壊、住宅などの倒壊リスクが高まることに加え、川の洪水や視界不良で救助活動にも支障が生じる。気温低下が重なれば避難生活の不安も増大するだろう。

 地震と豪雨の複合災害として知られるのは、1948年6月28日にM7.1を記録した福井地震だ。内閣府の「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1948福井地震」によると、震源付近では住家の全壊率が100%に達した集落が現れ、死者約3800人、全壊は約3万4000棟に上った。

 堤防は地震で天端が最大で4~5メートル沈下し、法面崩落が相次いで発生。約1ヵ月後の7月25日に襲った豪雨に耐えきれず決壊、濁流は福井市に流れ込んだ。浸水深は2.4メートルに達し、約7000棟の家屋が浸水。浸水面積は約1900ヘクタールに及んでいる。地震と豪雨という“ダブルパンチ”は、避難できた被災者の生活再建を遅らせるのは言うまでもない。

 予知が困難な地震に比べて、気象予報はニュースで見ることができる。ただ、悩ましいのは避難指示をいつ出すべきか判断が難しい点にある。災害対策基本法は、住民に避難を促す「避難情報」を発出する権限は自治体にあると定める。

 2021年11月に内閣府が公表した123市町村を対象としたアンケート調査によれば、「土砂災害の危険度分布や河川の水位等が刻々と移り変わるため、発令の判断が難しい」と回答した自治体は66%に上っている。

 「避難情報を発令しても、災害が起きず空振りになり、かえって避難指示の効力が薄れる不安がある」は63%、「避難情報をどのような範囲で発令するか判断が難しい」も57%に達し、人々に避難を促すタイミングに頭を抱える自治体の姿が浮かび上がる。

 2021年7月、静岡県熱海市では3日間降り続いた雨で大規模な土石流が発生し、28人(災害関連死1人含む)が犠牲となった。静岡地方気象台と静岡県は避難指示発令の目安である「土砂災害警戒情報」をほぼ1日前に出していたが、熱海市を含めて同県の4割にあたる14市町は「避難指示」(警戒レベル4)を発令していなかった。

 土砂災害警戒情報の精度は向上してきた。土砂災害の危険度の高まりを示す「キキクル(危険度分布)」は2019年6月に5キロメッシュ単位から1キロメッシュ単位になっている。

 気象庁は「危険な場所にいる方は、地元自治体から発令されている避難指示等に伴い、適切な避難行動をとってほしい。また自治体が空振りを恐れずに避難情報を発令できるよう、気象台からホットラインなどを通じて支援していきたい」としている。

 2023年5月5日に震度6強の強い揺れに襲われた石川県能登地方では、地震発生から一夜明けて降雨がみられたが、気象台と自治体の連携プレーで乗り越えた。

 揺れの大きかった地域では大雨災害が普段よりも起こりやすくなっているため、気象庁は大雨警報や注意報の発表基準を通常の7~8割に下げて運用。気象台から天気の見通しを聞いていた同県珠洲市は避難所を開設し、土砂災害警戒区域の住民に避難指示を出した。

 水害発生時の避難が大規模に及ぶことが想定される地域について、国と東京都は「首都圏における大規模水害広域避難検討会」を設置し、広域避難場所の確保や避難手段、避難誘導などを検討してきた。

 たとえば、台風上陸の24~9時間前に、(1)気象庁が高潮特別警報発表の可能性を伝える会見を行う、(2)荒川流域の3日間積算流域平均雨量が600ミリを超えると予測される、(3)江東5区(墨田・江東・足立・葛飾・江戸川の各区)の首長の判断のいずれかに合致した場合に「広域避難指示」を発令する。

 東京都は大規模水害時の浸水に備え、江東5区や高速道路各社と緊急避難先に関する協力協定を2023年4月に締結。避難情報のうち最も危険度が高い「緊急安全確保」(警戒レベル5)が発令された場合、首都高や京葉道路のランプを逃げ遅れた住民の避難先とする考えだ。

 ただ、先に触れた諺にあるように「地震の後」に豪雨が発生した場合はマニュアル通りにはいかない。首都直下地震や南海トラフ巨大地震の襲来時は混乱も生じるだろう。全国に残される言い伝えを無駄にしないためにも、複合災害の発生時に自分はどこに、どのように逃げるべきか。いかに家族と安否を確認し合うかなどは事前に決めておく方がよいだろう。

 つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。