1990年代、クルマの“珍”技術3選

AI要約

1990年代のクルマの珍しいテクノロジーについて振り返る。

ホンダが1992年に発売したCR-Xデルソルの特徴や斬新な技術、その背景について。

クルマのテクノロジー開発におけるチャレンジ精神や遊び心の重要性について。

1990年代、クルマの“珍”技術3選

夢あるテクノロジーを振り返る。

クルマの”珍”技術は、1980年代後半に花開いた感があるけれど、1990年代にもおもしろいものがいくつもある。1980年代には、ちょっとした思いつき……という感じのものが多かった。が、1990年代の特徴はけっこうおおがかりであることだ。

ここであえて“珍”と、呼んでしまうのは、「本当にこのあと何世代ものモデルチェンジを経てもその技術を磨きあげていくつもりがあるんですか?」と、尋ねたくなるものが、いくつもあったからだ。

感心するのは、思いつきのような技術でも、いやだからこそ、というべきか、しっかりコストをかけて実用化した自動車メーカーの関係者たちの努力である。

でも考えてみると、そういうチャレンジ精神とか遊び心がなくては、クルマは単なる実用の道具に堕してしまうかもしれない。

ここで紹介する装備をそなえたクルマに、いまの中古市場で出合う機会は稀かもしれないけれど、もし見つけることができたら、当時の企画担当者や技術者の努力に思いをはせてみたい。ちゃんと動けば、なんとなく毎日が楽しくなるようにも思う。そこが魅力だ。

ホンダが1992年に発売したCR-Xデルソルは、CR-Xとしては3代目にあたるけれど、それまでのコンパクトでスポーティな雰囲気のクーペボディから、がらりと変わった。

リアクーターパネルを残して上のルーフだけがとれる、先達でいうとポルシェ「914」のようなボディデザインが採用された。ホンダが当時すでにメインと考えていた北米市場では、セクレタリーカーと呼ばれるカテゴリーに分類されつつ、コンパクトだけれどルーフが外れる、という企画が奏功したようだ。いまも、あちらでは中古がそれなりに人気があるとか。

日本では5年で1万5000台程度の販売にとどまったが、シビック・デルソルの名で販売された米国では、同期間に7万5000台が売れたとされる。全長3995mmと数字上はコンパクトなのに、当時は、ノーズが長くて、リヤはセダン的で、なんだか間延びして見えたものだが、見る角度によっては、なかなかシャープなルックスだ。キャビンだけを見ると、フェラーリの往年の名車「250LM」が彷彿としてくるほど。

デルソルは、サイドパネル一体構造し、厚板大断面のアンダーフレーム、キャビン剛性を上げるクロスメンバー、そして軽量化を念頭に、従来のCR-Xより60kgの重量増に抑えつつ、ルーフを閉めた状態でボディ剛性を50%向上させるなど、つくりに凝っていた。

そして、もっとも印象に残っているのは「トランストップ」と呼ぶ、電動ルーフだ。1.3リッター車は手動で開け閉めする機構だが、1.5リッターには電動でトップが開閉するモデルが設定された。

ユニークなのは、開閉の構造がやたら凝っていたこと。ヒンジを使って開け閉めするのでなく、たとえばトップを開ける際は、トランクが開き、そこから格納ユニットが上にせり出してくる。格納ユニットはアームを延ばしてトップを取り込み、今度は下がっていく。

小さなトップに、そこまでの手間。手で開け閉めすればいいじゃないかって、当時の私は思ったものだ。企画担当者はどうやってトップを口説いて量産化にゴーサインをもらったのか。むしろそこに興味が向いたのも事実。

「心の解放をテーマに、従来にはない新しいカテゴリーのクルマとして、オープンとクーペふたつのボディパッケージのメリットを1台にまとめたユニークな2シータースポーツ」というのが、当時のホンダのプレスリリース。

そこはよくわかるけれど、トランストップを売り込む積極的な文言がみつからない。でもまあ、ムダかもしれなくても、やってみることが大事。クルマはそうやって発達してきたのである。