世界の学者120人がトヨタ「ミライ」の使用撤回を訴えたワケ しかもパリ五輪直前に

AI要約

パリ五輪でトヨタ自動車が提供する予定だった水素自動車が撤回され、電気自動車に変更された公開書簡について、国際的な学者や技術者が批判した。水素自動車のCO2排出量や効率性に疑問を呈し、パリ五輪の環境目標に反すると主張した。

書簡は、トヨタの水素自動車よりも、電気自動車が旅客輸送の脱炭素に効果的であり、水素自動車が真の解決策にならないと指摘している。

さらに、水素の製造には化石燃料が主要な役割を果たし、水素自動車がCO2排出を増大させる可能性があり、費用や希少性も課題となることが指摘されている。

世界の学者120人がトヨタ「ミライ」の使用撤回を訴えたワケ しかもパリ五輪直前に

 8月12日(日本時間)にパリ五輪が閉幕した。日本は今大会で金メダル20個、銀メダル12個、銅メダル13個を獲得し、合計で45個のメダルを手に入れた。金メダルの数とメダル総数の両方で、海外で行われたオリンピックとしては史上最多となった。

 そんなパリ五輪の開幕式から2週間前の7月12日、興味深いニュースが報じられた。CNNが、パリ五輪・パラリンピックにトヨタ自動車が提供する予定だった水素自動車「ミライ」の使用を撤回し、電気自動車に変更するよう求める公開書簡について報じたのだ。

 この書簡は、英国ケンブリッジ大学のデビッド・チェボン教授を筆頭に、

・オックスフォード大学

・コロラド大学

の学者や技術者120人が連名で発表した。

 彼らの主張は、パリ五輪のような世界的なイベントでトヨタが水素自動車を提供することが、水素自動車が

「脱炭素の選択肢」

であるかのような誤解を招く恐れがあるというものだ。この書簡に書かれた水素自動車に関する主張や、パリ五輪開幕直前に発表されたタイミングについての意図とは何か。

 公開書簡は、トーマス・バッハ(IOC会長)やパリ五輪組織委員会の会長宛てで、ccにはパリ市長も含まれていた。パリ五輪は「五輪史上で最もグリーンな大会」を掲げ、地球温暖化ガスの実質排出量を2010年代と比べて半減することを目指していた。しかし、この書簡は、トヨタが推進する水素自動車が

「ネットゼロ(温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすること)」

とは科学的に合致せず、

「パリ五輪の評判を傷つける」

ものだと指摘していた。

 CNNの報道に先立って、英国のケンブリッジ大学やウェストミンスター大学などの研究グループが関与する持続可能な道路貨物輸送センター(SRF)は、公式ウェブサイトで公開書簡を掲載した(2024年7月8日付)。

 SRFは2013年に設立され、道路貨物輸送の環境持続可能性を向上させることを目的とする研究機関だ。公開書簡の筆頭署名者であるケンブリッジ大学のデビッド・チェボン教授は、SRFのエグゼクティブチームの一員であり、ディレクターも務めている。チェボン教授は、水素自動車が環境に与える悪影響をユーチューブなどで発信しており、今回の書簡を主導した。

 書簡では、主に水素自動車はバッテリー式電気自動車(BEV)と比較して3倍程度の電力を必要とし、非効率的で相当量のCO2を排出すると主張している。このほかにも、トヨタの水素自動車使用の撤回を求める理由として、

・旅客輸送の脱炭素には、BEVが最も効果的であり、水素自動車は真の解決策にならない。

・水素の99%は化石燃料から製造されており、化石燃料由来の水素を使用する水素自動車は、ガソリン車よりも3割から5割ほどCO2の排出量を増加させる。

・価格が高く、水素燃料が希少であるため、水素自動車はネットゼロの有効な解決策にならない。

・東京五輪でも水素自動車が使用されたが、水素燃料のコストや供給設備の課題から成功しなかった。

といった点が挙げられている。