スタートアップのパワーエックス、深海での洋上風力に向け「電気運搬船」を開発

AI要約

日本の海洋国である日本にとって、浮体式洋上風力発電は再生可能エネルギーの有力候補となる。

エネルギー系スタートアップのパワーエックスが独自開発した電気運搬船は、深海でも洋上風力を可能にして発電量を増やす新たな技術だ。

電気運搬船は、再生可能エネルギーの発電地から需要地へ電力を効率的に運ぶことができ、次世代のエネルギーインフラとして期待されている。

風車を洋上に浮かべる「浮体式洋上風力発電」は、四方を深い海に囲まれた海洋国・日本にとって再生可能エネルギーの切り札になる。だが、深ければ深いほど海底に送電用の電力ケーブルを敷くのは難しく、コストもかさむ。こうした海域でも洋上風力を可能にして発電量を増やそうと、エネルギー系スタートアップ(新興企業)のパワーエックス(東京都港区)が「電気運搬船」の独自開発に取り組んでいる。

電気運搬船は、蓄電池を搭載し洋上風力でつくった電気を〝貨物〟のように運ぶ。出資企業でもある造船最大手の今治造船と建造を目指しており、全長140メートルの初号船には96個の水冷式蓄電池コンテナを搭載する。

一度で一般家庭80世帯ほどの年間消費量に当たる24万キロワット時の電気を運ぶことができる。令和7年前半に蓄電池を載せるための認証を取得し、8年に初号船を完成させる計画だ。蓄電池は岡山県玉野市にある自社工場の専用ラインで生産する。

初号船は北海道や九州など再生可能エネの発電量が多い地域から本州、離島への電力供給を想定。これらの地域で実績を積み、洋上風力向けの電気運搬船の建造に乗り出す。初号船よりも大型で、風車が止まる強さの強風や高波にも耐えられる設計にするという。

日本周辺の海域は浅瀬が少ない。パワーエックスの試算では排他的経済水域(EEZ)のうち電力ケーブルを整備したことがある水深300メートル未満の海域は約10%。大半が水深300メートル以上で、電力ケーブルの未開の領域だ。

洋上風力には一定の強い風が吹く沖合が好条件となるが、深海で発送電できる技術が必須となる。同社によれば、海底に電力ケーブルを敷設するには10年以上かかるとされる。電気運搬船だと1年程度で建造できるという。コスト面だけでなく、開発の速さでも電気運搬船に軍配が上がる。

現在のターゲットは、電力の一大消費地である東京に近い相模湾や駿河湾など水深があるエリアだ。相模湾では横浜市や東京電力パワーグリッドと連携した。横浜の港湾施設や大型旅客船などへの供給を見込む。

パワーエックスは、衣料品通販大手ZOZO(ゾゾ)で最高執行責任者(COO)を務めた伊藤正裕社長が令和3年に蓄電池の製造などを手掛ける企業として設立した。今年2月には電気運搬船事業を分社化し、事業成長スピードを加速。伊藤社長は「新規の事業として正式に始めることができるところまできている」と力を込める。(佐藤克史)