売り上げ99%減に組織崩壊…「荷物預けベンチャー」の復活劇
日本の訪日客数が過去最多の329万2500人に達している中、荷物預けサービス「ecbo cloak」が人気を集めている。
コロナ禍でサービス休止を経験したecboは復活し、京急電鉄との提携など新たな展開を見せている。
CEOの工藤慎一氏は苦難を乗り越え、事業の成功を信じ続けた姿勢が注目されている。
7月の訪日客数が1カ月としては過去最多の329万2500人(日本政府観光局調査)を記録するなど外国人観光客が押し寄せている日本。
国内旅行も活況が続き、都内の観光客が多く利用する駅では、コインロッカーがすべて埋まっていることも珍しくない。
そんななか、スマホ予約で簡単に荷物を預けることができるシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」が利用者を伸ばしている。同サービスを展開するecbo(エクボ)は8月19にち、京急電鉄とともに羽田空港からホテルへの荷物配送事業にも新たに参入するなど、勢いに乗っている。
しかし、2020年春に始まったコロナ禍の約4年間、ecboはサービス休止に追い込まれ、社員数は30人から2人に激減するなど組織崩壊を経験し、事業売却を検討するなど崖っぷちに立たされていた。
「コロナのときの記憶はあまりない」と話すecboCEOの工藤慎一氏だが、彼はなぜ事業の成功を信じ続け、急成長に至ることができたのか。
工藤氏は24歳で起業し、2017年にエクボクロークのサービスを開始し、一躍若手起業家として注目された。
従来、スーツケースなどの旅行客の荷物は、駅などのコインロッカーに預けるしかなかったが、コインロッカー不足により1日17万人以上が荷物を預けられなかったという。エクボクロークではスマホで事前予約すれば店舗の遊休スペースに荷物を預けることでこの課題を解決している。
その利便性が支持され、国内の旅行客はもちろん、外国人観光客にもユーザーが拡大。サービス開始から2年の2019年には、荷物を預ける拠点が47都道府県の1000カ所以上に拡大した。
しかし、そんな絶頂期を襲ったのがコロナだった。
コロナによる外出自粛を受け、荷物預けのニーズは一瞬にして立ち消えた。
エクボクロークは2020年3月にサービスを停止、経費削減のためにオフィスを解約した。
少しでも「出血」を防ぐため、2020年4月には創業メンバーなど一部を除いて、従業員の解雇にも踏み切った。
しかし、コロナが長引くにつれて残っていた社員の退職も相次ぎ、組織崩壊に至った。一時は30人まで増えた従業員は、コロナ後に2人まで減った。
「早いうちに転職してもらったほうがいいという判断だったが、どんどん仲間が離れていった」(工藤氏)
コロナ禍で周囲の環境も一変した。順風満帆だったときには「応援させてほしい」と出資に前向きだったケースでも、コロナ以降は、手のひらを返したような対応を受けることもあった。
会社の代表としての自信も失った。
コロナ禍でもなんとか売り上げを作ろうと、有名レストランの料理をチルド配送する新事業を2020年5月にローンチしたが、わずか2カ月でサービス終了となった。
「代表としてどんな状況でも力にしたい、何か攻勢に出ないといけないと、思いだけが先行してしまった」(工藤氏)
2021年からは断続的にサービスを再開したが、売り上げは99%減少という状況が続いたという。