「将来はバラ色ではない」JR東日本が模索する「脱・鉄道」、37年目の現在地

AI要約

JR東日本はコロナ禍を経て、鉄道事業と関連事業の変化を加速させており、赤字に転落したが、新たなビジネス構造に着手している。

鉄道主軸のビジネス構造から、生活サービスとの2軸への転換を検討し、コロナ前の輸送量回復を見込んでいるが、定期利用は80%の水準のまま回復しないと予測されている。

喜勢陽一社長は、鉄道を中心としたモビリティと生活ソリューションの2軸でビジネスを展開し、経営環境の変化にも柔軟に対応して成長を続ける方針を示唆している。

「将来はバラ色ではない」JR東日本が模索する「脱・鉄道」、37年目の現在地

 私事で恐縮だが、筆者3冊目の著書として、河出書房新社からKAWADE夢新書『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』を8月27日に上梓した。コロナ禍を経て、JR東日本は従来の鉄道主軸のビジネス構造を大きく変えようとしている。だが、実は「脱・鉄道」は民営化以降の課題だった。約10年ごとに訪れる試練の中、JR東日本は鉄道と関連事業にどのように取り組んできたのか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

● コロナ禍を経て 変化を加速するJR東日本

 日本最大の鉄道事業者であるJR東日本の取り組みについては、6年にわたる本連載でもたびたび取り上げてきたが、コロナ禍を経て鉄道事業、関連事業ともに変化は加速するばかりだ。

 同社は2020年度の連結営業収益がコロナ禍以前の半分程度に落ちこみ、発足以来初の赤字に転落、約5779億円もの巨額の純損失を計上した。2023年度の営業収益は対2018年度9割の水準まで回復したが、2018年度との比較では約1802億円の減収、約1712億円の減益となった。

 2023年度単体営業費約1兆7334億円のうち、列車運行に必要な動力費、設備の修繕費など物件費が約8122億円、人件費が約4065億円、減価償却費が約3214億円だが、これらは乗客の多寡にかかわらず必要な経費だ。

 2018年度と2023年度の営業費を比較すると、2021年度は緊急抑制策で1割程度の削減を実現した以外、ほとんど変化していない。両者がほとんど等しいのは、鉄道は固定費の割合が高く、損益分岐点が下がりにくいからだ。つまり、鉄道とは営業収益が損益分岐点を下回れば、減った分だけ利益も減少していくビジネスだ。

● 鉄道主軸のビジネス構造から 生活サービスとの2軸へ

 JR東日本は2024年度事業計画で、新幹線及び在来線定期外の輸送量はコロナ前と同等の水準まで回復すると見込んでいるが、定期利用は80%の水準のまま戻らない想定だ。

 駅・運転業務の省力化、保守作業の合理化など、鉄道オペレーションコストの削減を進めており、2027年度までに対2019年度で1000億円の削減が目標だが、2023年度末までに830億円の削減を達成しており、今後4年間の削減見込みは170億円にとどまる。

 こうした状況を受けて喜勢陽一社長は2024年4月30日の「2024年3月期決算および経営戦略説明会」で次のようなあいさつをしている。

 「これまでのビジネスモデルは、鉄道を主軸として構築してきました。安全が経営のトッププライオリティであることにはいささかの変化もありませんが、安全を堅持する中で、鉄道を中心としたモビリティと、お客さまとの幅広い接点を持つ生活ソリューションの2軸によって支えられる、そしていかなる経営環境の変化があってもサステナブルに成長を続け、皆さまのご期待に応えていけるビジネス構造を作っていきたいと考えています」