スティーブ・ジョブズが「送るべきでなかった」メールの内容公開。簡潔明快でもダメだった

AI要約

スティーブ・ジョブズのコミュニケーションスキルと簡潔な文章の例について紹介しました。

ジョブズが明快なメッセージを送りつつも柔軟な姿勢を示すエピソードを示しました。

最終的には自身の考えを改め、実行に移す姿勢が示されました。

スティーブ・ジョブズが「送るべきでなかった」メールの内容公開。簡潔明快でもダメだった

コミュニケーションの達人として名高いスティーブ・ジョブズですが、製品発表の際に「あ、それからもう1つ…」とつけ加えることでも知られています。

彼はまた、明快かつ簡潔な文章を書くことでも知られていました。

ただ、しばしば言えることですが、何かができる(明確で効果的なメールが書ける、など)からといって、いつでもそれをしていいとは限らないのです。

まず、ジョブズが簡潔に伝えて功を奏した例をみてみましょう。

1995年、ピクサーがグラフィックス技術で大きな進展を遂げていたころ、ジョブズとIntelのCEOであるアンディ・グローブの間では、Intelがピクサーから学べる技術を巡ってやり取りが交わされていました。

そのなかで、ジョブズの支援の申し出に応じて、あるIntelのエンジニアがジョブズに直接連絡を取ったときのことです。

スティーブ・ジョブズ 名言集『Make Something Wonderful』(無料の電子書籍)によると、「Intelにとって有益な知見がピクサーにはある」とジョブスは返信したそうです。

ただし、こうも付け加えました。

10年以上にわたる多大な投資を通じて培われた企業秘密は、弊社にとって極めて貴重なものです。これをプロセッサではなくソフトウェアに実装するだけでも競争力が増し、差別化を図ることができるからです。

高品質かつ高性能なグラフィックス実装に関する企業秘密を開示してしまうと、この独自性が損なわれることは紛れもない事実です。それも競合他社が苦労せず手に入れてしまうのです。

ですので、その分の補償をしてもらう必要があります。弊社の企業秘密開示とライセンス契約にあたって、御社からは何を提供いただけるのでしょうか?

明確かつ簡潔で、要点を押さえた内容ですね。

そして、エンジニアは、こう返信しています。

協議させていただきたいのは山々ですが、あなたの見解を伺い、保留にさせていただくことにしました。

マイクロプロセッサの機能向上に関しては、これまで多くのキーパーソンと議論を重ねてきましたが、これは業界全体に利益をもたらし、皆が恩恵を受けることを目指しています。

弊社のマイクロプロセッサの向上に役立つアイデアを金銭で買い入れるようなことはこれまでにしたことがなく、今後もそのつもりはありません。

エンジニアの返信も明確、かつ要点を押さえたものでした。

これに反応したジョブスは、皮肉っぽく返したのです。

その方針のせいでこれまで結果が残せなかったことは、御社のグラフィックス・アーキテクチャやそのパフォーマンスの低さからも明らかですね。今後は軌道修正してみたらどうでしょうか。

エンジニアだけでなく、彼はCEOグローブにもメッセージを送信してしまいます。

私の考えすぎかもしれませんが、(御社のエンジニアの)姿勢には傲慢不遜なものを感じました。過去にあったグラフィックス・アーキテクチャの不具合をIntelでは(彼ひとりが?)よく把握できていないようですね。

私なら、何かのかたちで何億ドル稼ごうと思ったときには、持てる限りの対価を支払ってでも最高のアドバイスを求めますけどね。

まあ、とにかく、これは売り込みではありません。いつもどおり思ったことをちょっと伝えたかっただけです。

「思ったことをちょっと伝えたかっただけ」という物言いは、映画『タラデガ・ナイト オーバルの狼』の主人公、リッキー・ボビーのセリフ、「お言葉ですが」同様、相手を傲慢、無能呼ばわりするのを正当化しているようにも聞こえます。

ところが、ジョブズからのメールに対し、グローブはより大人の対応をしたのです。

この件に関しては、私は(エンジニアの意見を)支持します。助言をくださるというあなたの申し出を真摯に受け止めた彼は、選りすぐりのエンジニアを集め、議論に臨むところでした。ところが、あなたは金銭という別の要素を新たに持ち出したのです。

この件についてはあなたと私の間で何度も協議してきましたが、これが金銭的な取り引きであるとは、あなたはこれまで一度も言及したり、含みを持たせたりしたことはありませんでしたね。あなたからのヘルプの申し出を、私は文字通り解釈していました。商取引の提案ではなく、ヘルプの提案であると。

私からも御社のビジネスに関して時折、提案をしたことがあったのはお覚えですよね。NextStepを486マイクロプロセッサにポートするといい、とご提案したり(これ弊社にもメリットのある事案ではありましたが)、その後のNextStepの方向性について、御社の社員に向けてプレゼンしたりしたこともありましたね。

これらが今回ご提案のグラフィックスの専門知識と同等だとまでは言いませんが、御社が直面している問題について熟考し、私の持てるものを提供したまでで、金銭の対価を要求しようなどとは夢にも考えませんでした。

協力関係にある企業(や友人)の間ではそうあるべきだと信じているからです。いずれは帳尻が合うようになっている、と。

あなたが同様にお考えでないのは遺憾です。お互いにとってあまり望ましくないことで、業界にとってもマイナス要因となることでしょう。

これは、とても思慮深い返信だったと言えます。

対するジョブズの返信もまた同様でした。

アンディーへ

至らないところの多い私ではありますが、恩知らずな人間ではないと思いたいです。そして、「いずれは帳尻が合う」ということについては、私も同感です。

よって、考えを根本から変えました。

(御社のエンジニアが)御社のプロセッサを3Dグラフィックス向けに大幅に改良するお手伝いを無償でさせてください。直接私に連絡してくるよう(御社エンジニアに)お伝えください。

弊社技術者が映画関係の業務から離れることができ次第、会議を設定します。

あなたのクリアな視点には感謝します。

短く、簡潔で要点を押さえた文で、謝罪の言葉すら含まれていませんが、その言葉すら必要ないでしょう。

自分の考えを改めたジョブズは、その「クリアな視点」を行動に移してみせたからです。

メールのやり取りにおいて、これは重要なポイントです。